天涯孤独の状況にあった40歳代の無業者男性Aさんが、この3月の寒い早朝、自宅でひっそりと亡くなった。
発見したのは、彼の支援者で、死後数時間が経っていた。死因は「心筋梗塞ではないか」とみられている。
長年、どこにも相談することなく、医療にもつながらない。前回の連載でも、子どもの頃から、そんな家族のネグレクト(放棄)状態に置かれた末の悲劇を紹介した。
しかし、Aさんの場合、家族とは音信不通で、頼る身寄りがなく、家も仕事もないまま、貧困にあえいでいた。そういう意味でAさんは、この社会からネグレクト状態にあったと言えるのかもしれない。
親の死去、家族との離別で
突然、ひとりになった
Aさんが生まれたのは東京だった。
家族は姉が1人。夫婦仲が悪かった両親は、Aさんが小学生のときに離婚し、Aさんは父親に、姉は母親にそれぞれ引き取られた。
高校を卒業後、出版取次会社などに勤務した後、自営で働いていたものの、不況とともに仕事が減少。ここ数年は、仕事がなかったという。
父親は再婚後、病気で倒れ、所在不明になった。やがて、母親や姉とも音信不通になり、住居を失った。
前回も少し触れたが、家族は「家の恥だから」と、引きこもる本人の存在を長年にわたり隠し続けていることが多い。ところが、親の死去や家族離別といった様々な事情から、ある日、ひとりになって社会に放り出されたときに、自ら情報収集するか、誰ともつながることができなければ、本人には生活していくためのノウハウなどわからないことになる。
しかも、そういうタイプの人たちほど「他の人に(社会に)迷惑をかけたくないから」という優しい心の持ち主である傾向が強い。その結果、彼らの多くは、社会に出る機会があっても、自ら摘んでしまっているのである。
今回、たまたまAさんと出会い、亡くなるまでの20日間、彼の生活保護の申請にも付き添ったりしてきた兵庫県姫路市の自助グループ「NPO法人グローバル・シップスこうべ」代表の森下徹さんに、Aさんとの話をレポートしてもらった。
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