世界の金融が脱炭素化を妨げてる?「英中銀総裁の警鐘」から約10年進歩しない根本的な理由写真はイメージです Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

脱炭素化を遅らせる近視眼的な時間軸

 私は最近、スペイン北東部のカタルーニャ州での子どもたちとのバケーションから戻って来たところだ。平穏な休暇を過ごすはずだったが、わずか400キロ離れた場所で、何百もの人々が1週間に及んだ豪雨による未曾有の洪水で命を落としたことを知り、胸が痛んだ。私はその悲劇を反芻しながら、2015年に英イングランド銀行のマーク・カーニー総裁(当時)が行ったスピーチを思い起こしていた。

 カーニー氏のスピーチ「ホライゾンの悲劇を打ち破る─気候変動と金融の安定」(注)は、政策立案者や金融システムの当事者が近視眼的であることが、気候変動を食い止めるための行動を妨げていること、そして指導者たちは手遅れになってからしか行動せず、悲惨な結果を招くこと――に対する懸念を指摘したものだ。このスピーチは非常に影響力があり、現在世界的に有名な「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の設置に結実した。

 しかし約10年前に、カーニー氏が気候変動問題に関して金融セクターに初めて警鐘を鳴らしてから、私たちはこの問題に関してどれだけ進歩しただろうか。脱炭素化の遅れについては前回に述べた。本稿では、私が考えるこの遅れの原因を説明するとともに、脱炭素化に向けた前向きな進展についても言及したい。