シリアのバッシャール・アサド大統領がロシアに逃亡し、欧州の指導者たちは大きな安堵(あんど)のため息を漏らしたに違いない。絶対的支配者だったアサド氏が権力の座から転落したことは、シリア国内でこれまで同氏が服従させていた国民にとっては朗報と言える。だが欧州では、最も差し迫った問題の一つである難民問題も今回の出来事によって解決できると期待されているようだ。
シリアの危機に対する欧州の最も明らかな行動がどのようなものだったか見てみよう。それはシリア人を送り返そうという試みだ。本稿の執筆時点で、欧州の十数カ国が、シリア人が提出した難民申請の処理を中止している。政治家の中には、既に申請が承認された難民を帰国するよう仕向けられるかもしれないとの見通しを語る者もいる。
2011年に始まったシリアの内戦が引き金となって大量の不法移民が押し寄せたため、欧州の政治はほぼ10年にわたって混乱している。最大規模の移民流入は2015年に始まった。何度も国境を越えようと試みた末に成功したり、完全に不法滞在となったりした者もいるため、その流入規模を正確に示すのは難しい。
おそらく最良の推計方法は、難民認定の初回申請件数だろう。これは、移民が合法的な滞在資格を得ようとする際に好む手段だ。2015年1月から今年8月までの間に、欧州連合(EU)域外から770万人近くが難民認定申請を行い、そのうちの約240万件は最初の2年間に行われた。国別の内訳では約20%がシリアから来た申請者であり、ほぼすべての年で最大の集団となっている。