名目賃金は5.7%伸びたが
消費者物価上昇率は6.6%

 実質賃金上昇率がプラスにならないのは、物価上昇率が賃金上昇率を上回るからだ。

 22年9月から24年9月までの変化率を見ると、表1の通りだ。

 この間に名目賃金は5.7%上昇したが、消費者物価が6.6%上昇し、実質賃金は0.8%低下した(なお、この計算では消費者物価として「持家の帰属家賃を除く総合」が用いられている)。

輸入物価は下落したが国内要因で上昇
企業は賃上げ分を価格に転嫁

 では、なぜ消費者物価が上昇したのか? ロシアのウクライナ侵攻を契機にした資源・エネルギー価格の急騰で輸入物価が上がったことが大きいからだろうか?

 そうではない。確かに22年には輸入価格が急騰したために国内の物価が上昇した。しかしその後、輸入物価の上昇は鈍化し、さらに下落している。

 消費者物価を引き上げたのは国内の要因だ。具体的には、企業が売上価格を引き上げることによって、賃金と利益を増加させているからだ。

 このプロセスについては、本コラム『物価と賃金の「好循環」は本物か?生産性上昇が伴わない賃上げは危うい』(2024年11月28日)などで、「単位労働コスト」や「GDPデフレーター」という概念を用いて説明してきたが、こうした専門的概念を使わずに説明すると、次のようになる。

 最初に述べたように、名目賃金はこの数年間に顕著に上がっている。仮に企業が技術進歩を実現した結果、賃上げが行なわれているのだとすれば、売上価格を引き上げなくとも、賃上げを実現することができる。しかし実際には、そのような技術革新は実現していない。

 また、企業が利益を圧縮して賃上げ分を吸収することも考えられるが、企業はそうした行動もしていない。実際、企業の利益は賃金支払い額以上に増加している。

 したがって賃上げ分は、企業の売り上げに転嫁され、最終的には家計消費や企業設備投資などの最終財の価格を引き上げることになる。消費者物価が上昇しているのは、このためだ。