世界有数のユーザー数を誇るライブサービスゲーム「Fortnite」と、ゲーム開発ツールのデファクトスタンダードUnreal Engineを持つ米Epic Games。かつて一介の開発下請け企業だった同社は、なぜここまで成長を遂げたのか。特集『50兆円をゲットだぜ!日本のゲーム』(全25回)の#16では、バンダイ、コナミグループ、ソニーなどで要職を歴任、20年以上のゲーム業界キャリアを持つベテランゲームライターの記野直子・カイオス代表による寄稿をお届けしよう。(カイオス代表 記野直子)
全主要ゲームメーカーが採用!
映画業界でも活躍する「アンリアルエンジン」
米Epic Games(以下エピック)を知らずして現在のゲーム産業は語れないと言っても過言ではない。中国のテンセント、ソニーなどの出資を受けており、2024年2月には米ウォルト・ディズニーが15億ドル(約2172億円)を出資するとの大きなニュースもあった。ここではエピックのすごさやその魅力を詳細にまとめてみたい。
もともと、1991年にTim Sweeney氏らによって設立されたゲーム開発会社だったエピックには、主に三つの顔がある。順を追って解説していこう。
まずは、ゲーム開発を効率化するための環境ソフトウエアであるゲームエンジンで、デファクトスタンダードを握る「アンリアルエンジン」(Unreal Engine:UE)の提供者としての顔だ。
UEは、元はエピックが自社タイトルを開発するために使っていた自社エンジンだが、98年ごろから商用化し他社へのライセンスを始めた。UEは現在Unityと並びゲームエンジンの代名詞となっているが、家庭用ゲーム機やPC向けなど、よりハイスペックなゲームを開発する際にはUEが選ばれることが多い。
UEはゲームの場合、全機能が無料で利用できるなど使い始めるハードルが低いことも特徴だ。UEを使ってゲームを開発して販売する開発者は、ゲームの売り上げが100万ドル(約1億5386万円)を超えたところから、エピックに対して5%のロイヤルティー支払いが発生するが、それまでは無料。そして、このロイヤルティーに関しても、EGS(Epic Games Store:エピックのPCゲーム向け販売プラットフォーム、次ページで詳しく解説)に独占、または他のプラットフォームと同時発売にした場合は3.5%に引き下げられる、という破格の条件の制度が25年3月からできる予定だ。
UEは高度な技術とその高い移植性が特徴だ。日本のゲームメーカーはタイトルのマルチプラットフォーム化(多機種展開)に遅れていたが、それを挽回するのにこのエンジンが貢献したことは間違いない。いまでは自社開発エンジンを保有するメーカーも含めた大手ゲームメーカーが、ほぼ全社で採用しているほどだ。
UEの安定性と技術力はゲーム業界以外でも評価が高く、現在ではハリウッドの映画やドラマを含む映像分野においても、描画エンジンとして多用されている。ゲームのみならず、アニメ・実写映画制作ツールのデファクトスタンダードになっているといってもよいだろう。
世界のゲーム産業において、最重要企業の一つとなったエピック。UEの提供でゲーム制作技術のデファクトを握るとともに、今後ゲーム業界を大きく左右するメタバース分野でも世界で有数の力を持っているという。次ページからは二つ目の顔である「Fortnite」、そして米アップルや米グーグルなどとの一大訴訟合戦にも発展した「EGS」という三つ目の顔についても、そのすごみを詳細に見ていこう。