特集『総予測2025』の本稿では、欧州最高峰の知性と称される経済学者で思想家のジャック・アタリ氏が、人類の脅威を「気候変動、核戦争、人工知能や遺伝子工学」と解説。トランプ米政権下で加速する可能性があると警報を鳴らす。(国際ジャーナリスト 大野和基)
日本はいずれ
核武装することになる
――あなたは2016年時に続いて24年時の米大統領選挙でも、トランプ氏の勝利を予測していましたね。今回は、「歴史上まれな接戦」などとマスメディアが喧伝しましたが、ふたを開けてみるとトランプ氏の圧勝に終わりました。
現政権が負ける現象は世界中で起きています。ハリス氏には大統領の資質がなかったといえばそれまでですが、現状に対する国民の不満が爆発したということです。
トランプ氏は、「4年前より今の方が、暮らし向きは良くなったか?」と問い掛け、聴衆は「NO!」と叫び続けました。数字を見て米国経済が良くなっていると考えるのは、エリートだけです。エリートは、庶民がどれだけ現状に不満を覚えているか、理解していないでしょう。世界中の労働者が現状に不満を覚えています。
――25年の世界情勢で最も懸念されることの一つが、やはりトランプ氏の動向です。米大統領、上下両院とも共和党が多数派となる「トリプルレッド」となり、しかも最高裁判事9人のうち6人が保守派ですから、トランプ氏が“独裁者”になりかねませんか。
幸いなことに米国には強力な合衆国憲法があるので、トランプ氏が独裁者になることはないです。憲法は、野党にも、各州にも、メディアや国民に対しても多くの権力を与えています。トランプ氏はロシアのプーチン氏や中国の習近平氏、北朝鮮の金正恩氏のような独裁者にはなれません。
ただ、トランプ・アジェンダの多くが達成され、まさに「黄金時代」にはなるでしょう。次々と明らかになっている人事を見ても、2期目は1期目と違って、トランプ氏への忠誠心が非常に強い人を政権に入れています。
――トランプ政権下で、日米同盟にヒビが入るかもしれないと懸念する人が日本では増えています。
トランプ氏は日本に何を要求してくるか分かりません。高い関税を課すことは間違いないでしょう。また、防衛費をGDPの2%ではなく、最低でも3%に増やすように要求してくる可能性は高い。トランプ氏は自国以外にお金を使うのを嫌がります。日本はいずれ、自国を自分たちで守るために核武装することになるでしょう。
次ページでは、アタリ氏による「世界の核武装、二つの戦略の違い」を解説します。日本が核武装するなら、英国タイプとフランスタイプ、どちらに当てはまるのでしょうか?