児童虐待や暴行、性加害…子どもを狙った卑劣な犯罪のニュースに心を痛める人は多い。
令和5年における18歳未満の子どもに対する不同意わいせつの検挙件数は1694件、不同意性交等の検挙件数は709件*に上る。
子どもの身を守るために、親として何ができるのだろうか。
本記事では、池上彰総監修の『いのちをまもる図鑑』(ダイヤモンド社)で第4章「犯罪からいのちを守る」の監修を務めた危機管理の専門家・国崎信江氏に話を聞いた。
(取材・構成/杉本透子)
*出典:警察庁「令和5年における少年非行及び子供の性被害の状況」
性教育は3歳からスタートしたほうがいい
――国崎先生は以前「性教育は幼児期から行うのがよい」とおっしゃっていましたが、保護者からは「性教育をしなきゃいけないのはわかっているけれど、子どもを性的な事柄に触れさせることになり抵抗感がある」という声も聞かれます。
国崎信江氏(以下、国崎):親御さんの心配もわかりますが、周りの身近な大人が見せる絵本、テレビ、動画、映画などの影響から異性や「キス」などの行為に興味を持ちます。
振り返ってみると大人自身も来た道なはずです。保育園や幼稚園の頃に他人に憧れを抱いたり、アニメを模倣して王子様がお姫様にキスしたら起き上がるごっこ遊びをしたり、ということがなかったでしょうか?
もちろんその子にもよりますが、私は年中や年少、できれば3歳頃から「プライベートパーツはあなたにとっても、誰にとっても特別なんだよ」ということは伝えたほうがよいと思っています。だから『いのちをまもる図鑑』の中でもプライベートパーツの解説はていねいに行いました。
小さな子にプリンセス絵本を与える大人が見落としていること
国崎:日本昔ばなしではキスしたりハグしたりというシーンはないのですが、プリンセスもの、特に昔からある物語には結構多いんですよね。寝ている間に王子様がお姫様にキスをして生き返るというような。
実はなじみ深い昔のプリンセスものは恋愛要素が多すぎる面もあり、子どもが現実と物語の区別ができずに、自分がしたいなら(相手の同意なしに)キスしても良い、相手も喜ぶはずと受け止めてしまうことも考えられます。
――今の時代に合っていないんですね。
国崎:今は信じられませんが昭和のテレビのバラエティ番組では女性の胸を揉んだり男性の下半身を掴んで笑いを取るシーンもありました。現実でやってはいけないという区別がつかず、面白いからと罪悪感なしにそれをまねてしまう子どもがいました。
子どもは親が思う以上に見るものから刺激や影響を受けるので、絵本やアニメーションなどを選ぶ際に慎重に選んでほしいと思います。
「日本昔ばなし」をおすすめする理由
国崎:私としては同じプリンセスものでも、より現代の価値観でつくられたものや、「日本昔ばなし」をおすすめします。
――小さな子が初めて触れる物語としては、プリンセスものよりもまずは日本昔ばなしがよいということですね。
国崎:情操教育的には「おむすびころりん」「こぶとりじいさん」もそうですけれど、良いことと悪いことがわかりやすくて、生きる上での知恵を学びやすいんですよね。
なかでも、「ももたろう」「さるかにがっせん」などは仲間と力を合わせることがわかりますし、「かさこじぞう」「つるのおんがえし」は困っている人(こと)に手を差し伸べると良いことが自分に返ってくることを感じると思います。
――本来であれば先に性教育があって、人のプライベートパーツに触れるには同意がいることを学んだ上で、キスシーンのある物語・アニメに触れるほうが、順番としてはいいということですね。
国崎:そうですね。プライベートパーツには「口」も含まれ、守られるべき部位なので、人のプライベートパーツに触れるには相手の同意がいること、物語と違って勝手にキスをしてはいけないと補足することも大切だと思います。
※本稿は、『いのちをまもる図鑑』に関連した書き下ろしインタビュー記事です。(監修:池上彰、今泉忠明、国崎信江、西竜一 文:滝乃みわこ イラスト:五月女ケイ子、室木おすし マンガ:横山了一)
国崎信江(くにざき・のぶえ)
危機管理アドバイザー。危機管理教育研究所代表
女性として、生活者の視点で防災・防犯・事故防止対策を提唱している。国や自治体の防災関連の委員を歴任。『10才からの防犯・防災』(永岡書店)や『おまもりえほん』(日本図書センター)などの監修もつとめる。