「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

経営戦略は人生に活用できる
本書の目的は
経営戦略論をはじめとした経営学のさまざまな知見を、個人の「人生というプロジェクト」に活用するためのガイドを提供する
というものです。
私は、大学で哲学と美術史を研究したのちに広告代理店の電通に入社し、20代に宣伝・広告のプランニングに携わった後、外資系コンサルティングの世界に身を移し、以後は20年にわたって、顧客企業の経営戦略の策定、企業変革の支援、組織開発・経営人材育成等のプロジェクトに携わってきました。
その後に独立し、現在は営利企業・NPO・自治体へのコンサルティング、スタートアップ企業のアドバイザー、経営大学院等の教育機関のファカルティ、世界経済フォーラム等の国際会議の研究員、ラジオ番組のパーソナリティ等の仕事に携わって現在に至っています。
キャリアを通じて一貫してやってきたのは、外部の支援者という立場から「状況を抽象化し、戦略を具体化する」という活動でしたが、では、これまでの人生の中でもっとも深くコミットし、長い時間をかけて考え続けてきたのは、どのプロジェクトであったかと考えてみれば、それは他ならぬ私自身の「人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジー」の考察だったと思います。
当時としては珍しく、MBA(=経営学修士号)を取らずにコンサルティングの業界に入ってきた私は、日々のプロジェクトを通じて、さまざまな経営戦略論のコンセプト、企業変革論のアプローチ、財務分析やM&Aの手法、人材育成論やリーダーシップ論のフレームワークを学び、プロジェクトの現場でそれらを使い倒していましたが、数年経ったある日、実践を通じて身につけたこれらの知見が自分自身の人生にそのまま適用できることに気づきました。
以来、私は、私自身の人生をひとつの大きなプロジェクトとしてみなし、企業がPDCAのサイクルを回すのと同じように、自身の人生についても、市場を分析し、戦略を策定し、結果を検証し、必要に応じて修正するというサイクルを回していきました。
この過程を通じて、クライアントを支援するために有用であった経営戦略論をはじめ、マーケティング、財務、オペレーション、組織行動論など、経営学全般のコンセプトやフレームワークが、個々人の「人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジー」を策定し、実行していく上でも極めて有用であるということを実感しました。
私が本書において提案したいと思っているのは、これらのコンセプトやフレームワークを、読者である皆さんの「人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジー」の策定・実践に活用する、ということです。
人生の
もしかしたら、このような提案に対して「人生と経営を結びつけるとはなんとドライで冷徹なことか」と苦笑される方もおられるかもしれません。確かに、一般に「マネジメント」には「計画」や「統制」や「管理」といったニュアンスが付きまといますから、このような感想を持たれても仕方がありません。
しかし「経営=マネジメント」という言葉の持つ別の側面を知れば、そこには「人生」と結びつく奥深いニュアンスがあることにも気がつくでしょう。というのも「マネジメント」には
「思い通りにならないものを、とにかくなんとかする」
という意味もまたあるからです。
先述した通り、マネジメントと聞けば、まずは「計画」や「管理」や「統制」といった言葉が思い浮かびますが、物事が「計画」通りに進んで「管理」や「統制」ができるのであれば、そもそもマネジメントは必要ありません。
予想もしなかったことが起き、さまざまな障害が立ち現れ、「計画」も「管理」も「統制」もうまくいかないからこそ、「とにかくなんとかする=マネジメント」が必要なのです。
今からおよそ百年前、シカゴの一会計事務所にすぎなかったマッキンゼー&カンパニーを世界的なコンサルティングファームへと変貌させた中興の祖であるマーヴィン・バウアーは、経営者に求められる資質の根幹にあるものとして「Will to manage=経営する意思」を挙げました。つくづく、いい言葉だと思います。
企業経営は思い通りにいきません。想定外のことが次々に起き、人々を束ねることも容易でないなか、それでもなお、成り行きにまかせるのではなく、「とにかくなんとかする」という主体的な意思を持って、目標の達成に向け、人々に働きかけ、組織全体を率いていくという「意思」が経営者には求められる、とバウアーは言っているのです。
そして、この「経営する意志=Will to manage」は、企業経営と同様に、これからやってくる非常に難しい時代にただでさえ思う通りにならない人生を送らなければならない私たちにも求められているものだと思います。