写真:加藤昌人 |
7月31日、ドイツの大手電子部品メーカー、エプコスの買収を発表した。
自動車向けや産業機器向けに強く、圧電材料など受動部品に強い。株価や為替次第だが、TOB(株式公開買い付け)総額は約2000億円となる見通しだ。
TDKは近年、ハードディスク駆動装置(HDD)用の磁気ヘッドメーカーの色彩が強いが、受動部品は創業以来の本流である。かねてテコ入れを行なってきたが、時間を買わなければ、アジア勢を加えた熾烈な競争に勝ち残れないと判断した。
8662億円の売上高はエプコスのそれを合算すると1兆1000億円を超えるが、それが目的ではない。企業価値を上げることに尽きる。
昨年12月まで34ヵ月連続で、出荷額が前年実績を上回る好調を持続していた電子部品業界も、世界的な景気減速の影響を被っている。携帯電話、自動車、家電など、基幹製品向けの需要がこぞって停滞している。
米国経済の悪化が欧州に飛び火し、北京五輪後の中国にも不透明感が漂うなか、先行きの見通しは厳しい。
冬山で深い霧にさしかかったときはどうするか。戻ろうとすれば転落し、じっとしていれば凍え死ぬ。慎重にではあるが、動き出さなければならない――。
こうしたたとえで現状認識を経営陣で共有した。1930年代不況の再来、日本のバブル崩壊に酷似といわれるが、デジタル化、オープン化、モジュラー化などビジネスのパラメーターは当時とはまったく異なる。経験と新しい知恵の両方を発揮することが必要になる。
(聞き手:『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)