海外事業のリストラを経て前期は最高益を達成したキリンホールディングス。新たな中期経営計画では何を狙うのか。

キリンホールディングス社長の磯崎功典氏Photo by Masato Kato

――先代2人の社長が手掛けたM&A案件である、豪州乳業事業とブラジル事業を手放す決断をしました。

 2人には相談しませんでしたよ。

 2014年末に社長就任を告げられてまず考えたのは「このままではキリンは持たない」ということでした。「海外比率を高め15年に3兆円企業になる」という中期経営計画に集中した結果、新規買収の海外事業が増え、これまで会社を支えてきた国内の既存事業を成長させることがおろそかになった。

 私は社長の仕事は10年先を考えることだと思っています。圧倒的に首位と差をつけられているブラジル事業と、キリンがノウハウを持たない豪州の乳業事業は、果たして10年後もキリンがやるべき事業か。それを考えると、忖度している場合ではありませんでした。

――不採算のキリンビバレッジを米コカ・コーラに売却することも検討したとか。

 最悪の場合は売却も選択肢でした。提携も検討したものの、ブランド帰属が全て米国本社になるので断念しました。

 キリンビバレッジは売上箱数を伸ばしさえすれば利益を出さなくてもいい、という箱数主義に陥っていた。最初は理解を得られず、コカとの交渉に加え、これまでは赤字でも出していた賞与を大幅にカットしてトップの交代も断行しました。それから社員が本気になった。サプライチェーンや商品ミックスが大きく変わった。その結果、主力商品の生茶のリニューアルが成功し、売上高営業利益率も大幅に改善。お荷物どころかグループの稼ぎ頭として復活しました。

――次期中期経営計画では「未病」領域を重点事業として掲げました。

 これまでキリンが持っていた飲料・医薬事業は、市場縮小に加え世界で飲酒に対する目が社会的に厳しくなっていることや、薬価改定等で大きく市場環境が変わる状況にあります。

 ただ、今後医療費が国家財政を圧迫することがどの国にとっても問題になっている中、病気にならないための事業には社会的にニーズがあります。

 現在はプラズマ乳酸菌という菌をベースにした健康支援食品が中心ですが、それだけではない。家庭用検査キットで、個人の体調に合ったサプリメントを調合して宅配するスタートアップである、ソーンリサーチに出資したのもこのため。孫会社であった協和発酵バイオを完全子会社化したのもこの足場づくりのためです。27年までに営業収益1000億円、事業利益率20%の、飲料・医薬に並ぶキリンのもう一つの柱に育てます。

(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)