“猿山状態”になることも

――『ルポ 超高級老人ホーム』の取材では、ホーム内での集団生活の難しさを感じました。退去する人は多いのでしょうか?

田村:それなりにいるでしょうね。自分が思い描いていたような生活ができないというのが1つ。それから、コミュニティの問題。人間関係や関わり方が合わなくて居心地が悪くなるというケースが多いです。

 私が以前関わっていた施設なんか、本当に「猿山」みたいな状況でした。グループの中でリーダー的な人が出てきて、その人が周囲を牛耳るんですよ。

 たとえば、入居者本人の申し出で退去する場合は、1ヵ月前に予告すれば退去可能といった規定があります。ただし、ホーム側から一方的に退去を求める「退去勧告」は基本的にはできません

――利用者が「2ヵ月前に退去する」と宣言した場合、その退去条件や利用者にとって不利になりそうな条項はありますか?

田村:最も重要なのは「入居一時金」の償却条件です。たとえば、1000万円の一時金を預けた場合、契約書に「初期償却として15%を差し引く」と記載されていると、即時退去しても850万円しか返金されません

 その後も月単位で償却が進むため、退去時に手元に戻る金額が少なくなることがあります。この仕組みを事前に理解しておかないと、「想像以上に返金額が少ない」といったトラブルになることがあります。

 また、現状回復費用も契約書に明記されています。たとえば、経年劣化(畳の日焼けやクロスの黄ばみ)は費用負担の対象外ですが、部屋の改装をしている場合は原状回復費用が請求されることがあります

 一律で「退去時に50万円の現状回復費用を負担」といった契約を提示する施設もあるため、事前にしっかり確認しておくべきです。

高級老人ホームの“ウラ契約”

――兵庫県の高級老人ホームを取材した際、入居のお金とは別に会員制のクラブのようなものがあって、会員費400万円を支払ってそこに入らないといけないという、いわゆるウラ契約がの話がありました。

田村:それは少し変ですね。たとえば、「介護が必要になった時に、優先的に介護棟に入れる」といった特典があるとしても、そのクラブに入会しないと優先権がないという形ですか?

――そうです。クラブに入らないと、介護棟に優先的に入居できないとのことでした。

田村:表向きはセットではないけれど、実質的に全員が入会しているような状態ですね。それは「セット販売」に該当する可能性があり、公正取引委員会のチェック対象になる可能性があります。正式な契約書に書かれていない形で義務付けられているのであれば、それは問題です。

 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の契約では、介護サービスの提供や一時金などが契約書に明示されるのが基本です。しかし、契約外の別の商品やサービスを事実上義務付けるのは不適切ですね。

田村明孝(たむら・あきたか)
株式会社タムラプランニング&オペレーティング代表取締役。「高齢者住宅支援事業者協議会」事務局長
1974年に大学卒業後、ケア付き高齢者マンション開発会社に入社。神奈川県横浜市などにケア付き高齢者マンションの開設を手掛ける。1987年に株式会社タムラ企画(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立、代表取締役に就任。高齢者住宅の事業計画立案及び実施・運営・入居者募集等、一連の実務に精通したコンサルタントとして活躍。市町村の介護保険事業計画などの福祉計画策定をはじめ、老人福祉施設や有料老人ホームの開設コンサルや経営改善コンサルに力を入れ実践している。テレビ、新聞、雑誌など各種メディアへの出演実績多数。