入居一時金数億、富裕層のみが入居できる“終の棲家”が、今話題の「超高級老人ホーム」だ。ノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』では、至れり尽くせりの生活を享受するセレブな高齢者たちの実像に迫っている。だが、老人ホームの入居に際しては契約の落とし穴もある。本稿では、40年近くにわたり高齢者向け介護事業のコンサルタントをつとめる、株式会社タムラプランニング&オペレーティング代表取締役の田村明孝氏に話を伺った。(取材:甚野博則、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

「400万円の“ウラ契約”」「猿山状態に嫌気がさして退去も…」老人ホームの契約書の恐ろしい“落とし穴”とは?Photo: Adobe Stock

知ってますか?
老人ホームの“契約形態”

――いざ老人ホームへ入居するとなると契約書を締結することになります。老人ホームへ入居する際の契約と不動産の賃貸借契約との違いはどのような点でしょうか。

田村明孝(以下、田村):有料老人ホームの契約は「利用権契約」と呼ばれる形式です。たとえば、要介護状態になった際に、ナースステーションに近い部屋へ移動することも可能です。一方で、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は「賃貸借契約」で、特定の部屋を借りる形になります。契約形態が異なるため、内容をしっかり確認する必要があります。

――介護が必要になって介護棟に移り住む場合、その契約は解約になるのですか?

田村:はい。サ高住の場合、移り住むことを本人が希望すれば、元の部屋の賃貸借契約は解約となります。「終身建物賃貸借契約」というものは、特定の部屋で死ぬまで住み続ける権利を保障するものです。この契約は、基本的にその部屋での生活を想定しており、他の部屋や介護棟へ移ることは考慮されていません。

“介護の範囲”はどこまで?

――契約の際、特に注意すべき点はありますか?

田村:多分、高齢者本人や家族が契約書の内容をすべて理解するのは難しいと思います。トラブルになりやすいのは、「介護してもらえる」と思って入居したのに、契約書には「この状態までの介護は対応する」とは書いてあるものの、それ以上はできないとされてしまう場合です。

 たとえば、認知症が重度になったり、寝たきり状態になった場合に「対応できないので退去してください」と言われることがあります。このようなケースで、利用者側が「聞いていない」と反発し、揉めることがよくあります。

 こういったトラブルを避けるには、「介護付き有料老人ホーム」で、介護保険の「特定施設入居者介護」の指定を受けているホームを選ぶことが安心です。このタイプのホームでは、介護を提供することが前提であり、重度の介護状態になっても対応してもらえます。

 一方で、「住宅型有料老人ホーム」では、「要支援」や「要介護1」などの軽度な状態は対応できても、「要介護4」や「5」になると退去を求められる場合があります。契約内容に「ここまでは対応可能」と明記されているホームでは、しっかりとどこまで対応できるのかを確認しないと後からトラブルになることが多いので注意が必要です。

 サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も、同様の注意が必要です。基本的に安否確認と生活相談サービスは含まれていますが、介護サービスは別途契約となり、外部の介護サービスを手配する必要があります

――どこまで対応してもらえるのかは契約書に書かれている?

田村:契約書そのものには細かく書かれていないことが多いですが、付属する書類として「管理規定」や「介護規定」があり、そこに詳細が記載されています。たとえば、「お風呂は週に2回提供する」など、最低限保証されるサービス内容が明記されています。

「週に何回のサービスを提供する」といった情報もこの規定に書かれているので、入居前にしっかり確認しておくことが重要です。

――入居者側が施設に対して「このサービスもやってくれると思ったのに」といった不満を持つことがある?

田村:そのようなケースが多いです。ただ、それは「管理規定に書かれていないことを、勝手に期待してしまう」ことが原因である場合がほとんどです。

 ホーム側は契約書や規定に基づいて対応しており、「説明しましたよね」という立場を取ります。ただ、入居者や家族側が契約内容を十分理解していない場合、トラブルに発展しがちです。

 ホーム側としても、そうしたトラブルを避けるためには「契約書に記載されている内容以上のサービスは提供しない」という立場を明確にしておく必要があります。