80代の母の介護をきっかけに、49歳のときに新築で購入した都内のマンションから築50年越えの団地に引っ越した著者。母の介護をしながら団地暮らしを楽しむ彼女が語る、母と娘のちょうどいい距離感とは。本稿は、きんの『54歳おひとりさま。古い団地で見つけた私らしい暮らし』(扶桑社)の一部を抜粋・編集したものです。
責める言葉で自己嫌悪
私が笑えば、母も笑う
介護は思ったよりも大変で、予想外のことが日々起こりイライラの連続。大切なお金をどこかにしまって忘れたり、入れ歯が洋服ダンスから出てきたりと、私には理解できないと思えることも、母の世界では理由があったりします。つい最近までできたことができなくなることもよくあり、不安と戸惑いから母を責めてしまい、その悲しそうな顔を見ては自己嫌悪しています。
思えば、母と暮らした期間は人生のほんのわずか。知っているようで知らないことも多く、母の生活をサポートしながら、母の生涯を知る日々です。私は心配性でせっかち、母は天真爛漫でおおらかなのんびり屋さん。ただでさえうまくいきそうにないのに、仕事と介護という余裕のない生活から、思いやりのない言葉で傷つけてしまうこともあります。
認知能力の低下から不安で何度も確認してしまうこと、家電の操作がわからなくなったり、足腰が弱くなって外出が面倒になること……。母に起こっている問題は、いずれ私にも起こるはず。自分が自分でなくなるようで不安なのに、心無い言葉で傷つけられたらどんな気持ちになるだろうと想像するたび、申し訳なく思います。
あるとき、探し回っていた財布が、冷蔵庫から発見されるという出来事がありました。仕事で疲れていて、イライラしながら探していた私。冷蔵庫の中でしっかり冷やされた財布を見つけて脱力し、「財布を冷やしてどうするつもり?」と笑いながら言うと、「ほんとバカだね~」と母も笑っていました。
そんな母の笑顔を見て、ハッとしました。介護はひとりで無理して頑張りすぎてはいけないし、自分を追い詰めてはいけない。私が笑えば母も笑う、笑いながら過ごした方が誰だって楽しいに決まっている……と、頭では理解したものの、いまだに「どうしてこんなことになったの!」と日々口ゲンカが絶えません(笑)。