「たった5文字」で心が温かくなる魔法の言葉…漫画家が義母に学んだ口グセとは?同書より転載

ロングセラーの4コマ漫画『小さな恋のものがたり』の作者・みつはしちかこ氏は現在、亡き家族を思い出しながら、83歳のひとり暮らしを満喫中だ。そんな彼女の日常を綴るエッセイ集には「ありがとう」の大切さが収録されている。かつて「ありがとう」を言葉にできなかった照れ屋さんが「ありがとう上手」になれたのは、身近にいた恩人がきっかけだった。※本稿は、みつはしちかこ氏『こんにちは!ひとり暮らし』(興陽館)の一部を抜粋・編集したものです。

義母の「ありがとう」とともに
気持ちのいい空気が流れてくる

 いまはもういない義母の思い出。

「ちかこさん、お茶をいれてくださいな」と、わが義母。わたしは、めんどうくさいな、自分でいれればいいのに……、と内心ちょっとふくれっ面をしてお茶をいれます。

 すると、すぐに素直な「ありがとう」という言葉が返ってきます。それで、わたしはたちまち、めんどうくさいなんて思ったことを後悔してしまうのです。

 わが家の嫁姑が、長い間どうして仲よくやってこられたのかといえば……、それは義母のこの「ありがとう」のひとことによるところが大きいように思います。

 わたしは照れ屋で、なかなか人に面と向かって「ありがとう」とは言えません。心で思っていても、口に出せない。でも、やっぱり感謝の気持ちは、言葉に出さなければ相手には伝わらないものなのですね。その点、うちの義母は実にタイミングよく、さりげなく、しかも頻繁に「ありがとう」が言える名人でした。

 孫に針の糸を通してもらったとき、字の小さい読みにくいハガキを読んでもらったとき、わたしにスキヤキ鍋からやわらかそうなネギを取ってもらったとき、などなど。そういう日常の、なにげない暮らしの端々に、即座に「ありがとう」が出てくるのです。そうすると、言葉とともに、いつも気持ちのいい空気が流れてくるのです。

 とくに、照れ屋のわたしが感心するのは、たまに義母といっしょに出かけたとき。行き先は、病院だったり観劇だったりするのですが、帰ってくるとかならず、ちょっと改まった感じで「今日は、どうもありがとう」と言われます。思わずこちらも居ずまいを正して、「いいえ、こちらこそ行き届きませんで」と応じるところなのでしょうが、実際は「アハッ」とか「イヤー」とか、「べつに、そんなにたいしたことじゃー」とか言って、照れてごまかしてしまいます。

自分も「ありがとう」と口に
出すことが楽しくなってきた

 でも、いい気持ちになるんですね。「ありがとう」のひとことって不思議な力を持っているのだなーと、つくづく思います。