「朝食を摂る習慣がない子は学力が低い」という文部科学省のデータはよく知られているが、朝食の「質」も子どもたちの認知機能発達に大きく影響を与えているのだという。そして子ども時代に限らず、大人になってからも朝食を食べる習慣がある人たちのほうが仕事へのモチベーションや集中力が高く、収入も高い傾向にあることも分かっている。脳機能研究の第一人者が「朝食」の重要性を解説する。※本稿は、川島隆太『脳を鍛える!人生は65歳からが面白い』(扶桑社)の一部を抜粋・編集したものです。
毎日朝食を摂る人たちは
生涯年収も高いという事実
「食事」と脳の関係についてお話しします。
60代以降になると、体力と気力の低下や家族の人数が減ったことで、以前よりも食事に手をかけなくなる人も多いかもしれません。ですが、食事の内容は脳のパフォーマンスに直結しています。特に朝食をとるか、とらないかは勉強、仕事、スポーツ、メンタルと、生活にかかわる多方面に影響を及ぼします。朝食を食べるか食べないかで脳機能に明らかな差が出てくるのです。
そうした差のひとつの例をご紹介します。私たち東北大学が、朝食習慣がどのような影響を与えるか調査したところ、子ども時代に限らず、大人になってからも朝食を食べる習慣がある人たちのほうが仕事へのモチベーションや集中力が高いことがわかっています。また、年収にも関係していて、朝食を毎日食べる習慣のある人たちの生涯年収は高い層に集中しているのです。
こうした脳と朝食の関係性に私が注目するようになったのは、脳科学と教育に関する調査事業を行っていたなかでのことです。文部科学省の全国学力調査の解析結果で、毎年、朝食を食べる習慣がない子は学力が低いというデータが出ていることに加え、後述しますが、朝食の質が子どもたちの認知機能発達に影響を与えているという証拠をつかんだからです。
朝食習慣がない子どもの学力が低い理由は明らかで、朝食をとっていない子は、脳がガス欠を起こしているのです。朝起き抜けの身体は栄養不足です。脳を働かせるためのエネルギーはブドウ糖と酸素ですが、食事をとらなければ脳へブドウ糖が十分に送られないままですから、ぼーっとしてしまいます。
おかずが多いほど
脳が活発に動きだす
集中力を欠いていると授業への参加意欲も高まりませんし、せっかく学習したことも定着せず、学びへの意欲が薄れてしまいます。こうした悪循環で成績が伸び悩んでしまうケースが多いのです。
さらにこの調査のなかで、「朝食は食べる内容も大切」ということがわかりました。朝食の重要性は、調査対象である子どもたちの保護者も経験上感じていたのでしょうか、調査した子どもたちの90~95%は朝食をとっていました。
しかしその内容はというと、主食だけ、という子も約半数いました。さらにそのなかで、朝ご飯は飴だけ、と答えた子どもたちが全国のどの地域でもいたことに、強い衝撃を受けたのを覚えています。
「頭を働かせるのはブドウ糖」という知識のみの保護者もいるのでしょう。ブドウ糖を補給するためにはご飯やパンなどの主食(炭水化物)が必要、という意識が働くためか、おにぎりやパンだけでおかずはなし、という子もいました。