多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。「ここまでわかりやすく傾聴について書かれた本はないだろう」「職場で活用したら、すぐに効果を感じた」と大反響を呼んでいます。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。
「傾聴」において大切なのは、相手にとって重要なエピソードを語ってもらうことで、そのエピソードが相手にもたらした「感情」を知ることです。これができたとき、初めて相手は心を開いてくれるのであり、深い対話が始まるのです。
そのためには、相手の語るエピソードに耳を傾けながら、「あなたは、その時、こんな気持ちになったのではありませんか?」などと質問をしていく必要があります。ただ、ここで注意が必要なのは、一つのエピソードにおいて、相手が感じている「感情」は一つではないということです。
人間の「感情」は複雑です。一説には、一つのエピソードで最低でも5つの「感情」が存在していると言います。その「複数の感情」をまとめて一度に確認しようとすると、どうしても“上っ面”なコミュニケーションにしかなりません。そうではなく、「感情」をセパレートして、その「感情」を一つひとつ順番に、丁寧に確認していくことが非常に大切なのです。
そのためには、「複数の感情」をまとめて一度で相手に確認をするのではなく、一つひとつをセパレートして順番に丁寧に確認することが大切です。以下に、両者の比較をしてみました。
【ケース1】「複数の感情」をまとめて一度に確認する
聴き手「最初は驚いて、次に怒りが出てきて、最後にがっかりして、悲しくなったんですよね、どうですか?」
話し手「え、えぇ。まぁ、そんな感じですね……」
【ケース2】「複数の感情」をセパレートして、一つずつ丁寧に確認する
聴き手「最初は、驚いたんではないでしょうか? どうですか?」
話し手「ええ。そうなんです。まさか○○と言われるとは。びっくりして……」
聴き手「あぁ……。そうだったんですね。予想外の言葉にびっくりしたんだ」
話し手「そう、そうなんです。私は××をいつも大事にしてきたから、まさかそんなことを言われるとは……」
聴き手「そうだったんですねぇ。ええ、うん、うん……。そして、どうでしょう。次に少しずつ、怒りが湧いてきたように見えました。どうでしょうか?」
話し手「うーん……言われてみればそうかもしれません。あぁ、僕は怒ってたのかぁ……」
このように、一つずつ丁寧に感情を扱い、一緒に感じてみるのです。注意していただきたいのは、相手の感情を「当てる」ことに集中しないということ。そうではなく、一つひとつの「感情」を、丁寧に「味わう」「共感する」「体験する」ことに焦点を当てていただきたいのです。話し手に感じてほしいのは「気持ちをわかってもらえた」という感覚。そのためには、感情をセパレートして一つずつ「味わう」ことが大切なのです。
(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。