『学問のすすめ』というタイトルは、多くの人が“勉強のすすめ”だと誤解しがちだが、そこには当時と今もまったく変わらない、豊かでしなやかな生き方のアドバイスが満載だ。「欲」「バランス」「独立心」「怨望」など、今日にも通じる4つの秘訣を読み解く。

※以下、本文で引用・抜粋・要約されている『学問のすすめ』の文章は、岩波文庫版を底本として、本連載の著者・鈴木博毅氏が現代語訳しています。

■欲張りやケチも、程度によっては美徳になる

『学問のすすめ』では、単に学習に関する話題だけではなく、広く生き方の課題についてもアドバイスが語られています。意外なことかもしれませんが、適切な「欲」であれば、むしろ人間の人生を豊かにするために欠かせないものだとも述べています。

「贅沢でさえも、その人に相応であるかどうかで美点にもなり欠点にもなる。暖かい服を着て、住みよい家に住むことを好むのは人間の性質である。正しい方法でこの欲求を満たすことを、欠点とはとても言えない。お金を稼いで上手く使い、散財をしても限度を超えない者は、見事な人間というべきだ」(『学問のすすめ』第13編より)

 贅沢の逆である「ケチ」も、適切な範囲で倹約することは美徳であり、場所や限度をわきまえず、お金を得るために道を外して方向を誤るならば「ケチ・強欲」となってしまうのです。

【適切なバランスを取ることで美点・欠点が決まる例】
・傲慢さと勇敢
・粗野と率直さ
・頑固と真面目さ
・軽薄さと鋭敏さ

 まったく勇気がないのも困りますが、過剰な傲慢さにつながれば欠点となります。
 品位を欠かない範囲で率直であることは美徳、それを超えると粗野となることもある。

『学問のすすめ』第8編でも、ウェーランドの書籍『モラル・サイエンス』からの引用として、「身体・知恵・欲・良心・意思」の5つを上手く活用して適切なバランスを取ることが、良い人生の秘訣だとしています。

 上記の5つの要素は、道具と使い方の関係、あるいはアクセルとブレーキの関係のように、自らが上手に管理することで、個人の独立を達成することが可能になる、と諭吉は指摘しています。それらの感情や性質を「自ら使いこなす」ことが重要だということです。