人間の欲は必ずしもマイナスではない
「天は人の上に人をつくらず」の有名な言葉からも、歴史的名著である『学問のすすめ』は非常に硬い、道徳の教科書そのものであるようにイメージしている方も多いかもしれませんが、実際には人生で実践できるリアルなアドバイスや提言に溢れています。
その一つとして、人間の欲望の価値を認めていることも挙げられます。適切な欲望は人間にとってのアクセルと同じであり、ブレーキだけが機能しても人生の目標を達成することはできないからです。
逆にブレーキが利かなければ、アクセルを踏むことが暴走の原因になります。生き生きとした充実した毎日は、物事を始めるための健全な欲求から生まれます。多くの人や出来事に触れながら、自らの5つの要素をバランス良く管理することから人生はつくられていくものなのです。
気づかず、モノや他人に
支配されている人が非常に多い
「一杯、人、酒を呑み、三杯、酒、人を呑む」という諺が第16編では紹介されていますが、酒を好む欲がその人の本心を支配してしまい、自分自身の判断力を失わせているという意味です。
「この着物に合わないからとあの羽織を作り、この衣装と釣り合わないからとあの煙草入れを買い入れる。衣服の次は家となり、家が手に入れば宴会を開かないわけにもいかないとなる。(中略)だんだんと進んで限りがない。この状態を見れば、一家の中に主人がおらず、一身の中には精神がなく、物が人を制して物欲を湧かせ、主人はモノの支配を受けてモノの奴隷として使われているようなものだと言える」(第16編より抜粋)
さらにひどい例では、周囲の人がこの洋服を作ったから自分もこれを作る、隣の家が2階建てにしたから我が家は3階建てにするなど、ひたすら他人や周囲との比較を気にして(他人に)支配されている例もある。
諭吉は、このような状態は精神の独立とある程度距離がある状態であり、どれだけ精神的独立から離れているかは、自分自身で考えてみるべし、と説いています。