社会の幸福を損なうだけの「怨望」
欲を含めたいくつかの感情が、適切なバランスを取ることで美徳となることがある一方で、たった一つ、世の中に絶対に害をもたらすだけの感情があると諭吉は指摘しています。
「怨望」(えんぼう)は、他人と比較して自分に不足があれば、それを改善することで自分が向上・満足するという方法を取らず、他人の足をひっぱることで相手を不幸に陥れて、自分と他人を同じ状態にしようとすることです。
このような者の不平を満足させようとすれば、世間一般、私たちが暮らす社会の幸福が減るだけであり、なんの得にもならないからです。
だからこそ、さまざまな感情のバランスを上手に活かすことで私たちは人生をつくり上げながらも、怨望に囚われることだけは避けなければいけないのです。
健全な意欲と向上心は、自分以外に優れた出来事や人に出会ったとき、自らの成長の糧とすることができます。逆に「怨望」に囚われるなら、何かに出会うたびに、他人の足を引っ張り合うだけで、個人も社会も幸福を減じることになるのですから。
しなやかに、自由闊達に生きる4つのコツ
『学問のすすめ』から学んできた、良く生きるための4つの秘訣をまとめてみましょう。
(1)物事を始める「欲」は必ずしもマイナスではない
(2)適切なバランスこそ最も大切なものがある(なくても困る、過剰でも困る)
(3)モノや他人の姿に支配されない独立した精神を獲得する
(4)社会の幸福を損なうだけの「怨望」を避ける
諭吉が健全な欲求を否定しないのは、象牙の塔のような学術だけの分野ではなく、普通の暮らしをする社会の中で、人が生き生きと毎日を過ごす原動力を重視したからではないでしょうか。
蓄財、散財も適度なバランスで上手に行えるのであれば、美徳であると語るように、厳しい抑制だけではなく、適切な欲を正しく使いこなす側になることが大切です。
酒が人を呑む、というたとえ話のように、モノや欲に逆に支配されて、精神の奴隷にならないこと。人の姿を見て、その比較からなんでも決めてしまうのは、他人の姿に支配されていることになること。
出会うこと、出会う人に優れた点を見つけたら、必ず自らが成長する正しい意欲に変換すること。相手の足をひっぱり、自分と同じレベルに落とすような「怨望」に囚われて、社会の幸福を減らす側に回ることのないように。
この文章の最後として、第12編に書かれている“品格を高めて生きる方法”をご紹介しておきましょう。
「人の見識、品格を高めていく方法にはどんなことがあるか。その秘訣は物事のありさまを比較して自分を高め、自己満足に陥らないことである。比較においては個々一点を比較するのではなく、こちらの全体とあちらの全体を比較して、双方の良いところ悪いところをすべて観察すべきである」(12編より抜粋)
この生き方は、どのようなもの、どのような刺激に接しても、常に自分の成長の糧とすることであり、日々新たな出会い、新たな場所や環境に入っていく経験がすべて、あなた自身の向上につながります。
140年前の名著がすすめる「良い生き方」とは、清々しい向上意欲に溢れた人生なのです。
次回は5月16日更新予定です。
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