多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。「ここまでわかりやすく傾聴について書かれた本はないだろう」「職場で活用したら、すぐに効果を感じた」と大反響を呼んでいます。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。

「不快な相手」とも上手に付き合う方法・ベスト1写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「攻撃的な相手」にどう向き合うか?

「傾聴」について、よく聞かれる質問があります。
 例えば、1on1で部下の話に耳を傾けようとしていたら、「経営批判」や「会社批判」のオンパレードだったり、同僚に対する「不平」「不満」「悪口」のオンパレードだったり、あまりに「攻撃的な発言」や「ネガティブな発言」が多くて不快で耐え難い。「こんな時はどうすればいいのか?」という質問です。

 そんな時に、僕が意識しているのは「コーピング」です。
 コーピングとは「自己防衛的な対処行動」のこと。つまり、「攻撃的な発言」「ネガティブな発言」などはすべて、話し手が自己防衛するための対処行動だと考えるのです。

幼い頃から続けてきた「自己防衛」だと理解する

 コーピングは、その人にとって厳しいと思われる環境を生き延びていくために、主に幼少時に獲得した自分を守る方法です。そのため、もしかしたらそれは幼稚な方法論かもしれません。むしろ逆効果で、他者に嫌われるような方法かもしれません。

 しかし、本人にとっては、これまで自分を守ってきてくれた大切なコーピング(対処行動)です。20年、30年、40年にわたって使い続けてきたコーピングを、そう簡単に手放すことはできません。そのことを理解するのです。

 すると、聴き手である僕たちの心がふっとゆるみます。
 そして、たとえ相手から共感しにくい「攻撃的な発言」をぶつけられたとしても、それは相手が「自己防衛」をするために繰り出したコーピングなのだと受け止めることができるようになるはずです。これも共感です。相手が発した「言葉」に同感はできなくても、相手に「共感」することは可能なのです。

(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)

小倉 広(おぐら・ひろし)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。