日銀の解釈は間違っている
単位労働コストの上昇は赤信号
ところが日本銀行は、単位労働コストの上昇を、デフレ脱却を確かなものにする「賃金と物価の好循環」を示すものだと解釈している。つまり、単位労働コストの上昇を望ましい現象だとしている。
しかし、この考えは間違っている。全く逆であり、これは「賃金と物価の悪循環」以外の何ものでもない。
この状態が続けば、賃上げと物価上昇のインフレ・スパイラルに陥る危険がある。そして、日本経済はデフレ脱却どころか深刻な不況への道を進むことにもなりかねない。このことは、いくら強調してもしすぎることはない。
石破政権は、実質賃金の上昇を最も重要な政策課題としている。しかし、このままでは公約を達成するのは難しいだろう。なぜ物価が上昇しているのかをきちんと解明し、それに対処することが公約達成のための重要な課題だ。
これまで述べたように、賃上げが価格転嫁によって行なわれる限り、実質賃金が安定的に上昇することにはならない。日銀がいまの状況を「物価と賃金の好循環」だとして容認する限り、公約は実現できないことを石破政権は理解すべきだ。
これも、本コラム『「実質賃金」引き上げの“公約”は画期的だが、価格転嫁では実現しない』(24年10月24日付)で政権発足当初に警鐘を鳴らしたことだ。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)