エコカーといえば、ハイブリッド車や電気自動車に注目が集まる昨今のムードを受けてか、燃料電池車の世の中に対する押し出しは、現状ではかなり弱い。まさか、ひっそりとお蔵入りしてしまうのか。その問題意識を持って、水素素材研究の世界的権威、村上敬宜(むらかみ ゆきたか)九州大学 理事 副学長の元を訪れた。写真は福岡県の公用“燃料電池車”、トヨタ「FCHV-adv(エフ・シー・エイチ・ヴイ-アドバンスド)」。

 開口一番、「(燃料電池車が)本命ですよ!」。燃料電池に関するプレゼン画面を右手に見ながら、村上敬宜 九州大学理事(副学長)は、自信に満ちた笑顔で、そう言い切った。村上氏は水素材料の研究分野における世界的権威である。

 昨今のEVブームで、すっかり影が薄くなったFC(Fuel Cell/燃料電池)車。思い起こせば、2002年12月2日の霞ヶ関・首相官邸、当時の内閣総理大臣・小泉純一郎氏は、世界初の量産型電池車の納車式に参加した。奥田碩・トヨタ自動車会長(当時)、吉野浩行・ホンダ社長(同)と同乗した燃料電池車初体験に、小泉氏は大変ご満喫だった。こうした「小泉劇場」を後ろ盾に、燃料電池車の明るい未来が見えた、はずだった。だが2009年夏の日本“エコカーブーム”において、燃料電池車の世の中に対する押し出しは、かなり弱いという印象を誰もが持っていることだろう。

 こうした「燃料電池車不人気」の理由について、以下が、筆者が世界各所で取材した経験に基づく解釈だ(正確には、今回の九州大学取材前の時点での解釈)。

(1) 燃料電池車は、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)の次に来る技術、という「次世代車のピラミッド構造」がある。そのなかで現在は、直近の量産化に向けての技術開発競争がHEVを基軸に、PHEVとEVに大きくシフト。開発の序列として燃料電池車の存在が薄い。

(2) 2008年に日米でリース販売を開始した、ホンダの世界初市販型燃料電池車「FCXクラリティ」は、広い意味で「実証試験段階」。同車は3年間(2008~2011年)で合計200台のリース販売を目指すが、インフラの問題等や経済事情悪化によって、市場としては急激には広がらない見通し(2009年5月時点で契約台数は、米国は個人向けで7台、日本は事業者と官庁向けで4台)。そのため、トヨタ、日産など実証試験車両があるメーカーはリース販売への最終決断がし難い。

(3) 2008年9月のリーマンショック後、将来に向けた高額な研究開発に対して、日系各社の方針が修正される場合が多い。その中で燃料電池車については「止めないが、急速には進めない」という風潮がある(つまり、多くのメーカーで経営陣から燃料電池車・開発担当部に対してそうした指示がなされている)。