勤労者世帯の実収入は増えたが
3割強占める無職世帯は賃上げの恩恵なし

 家計調査では、「2人以上の世帯」を主に、その収入や消費の動向をみているが、2人以上の世帯には、「勤労者世帯」と「無職世帯」がある。世帯人数で、前者が54.0%、後者が34.5%だ。この他に個人営業の世帯(11.5%)がある。

 世帯主の平均年齢は、勤労者世帯は50.8歳、無職世帯が75.3歳だ。後者は退職後の年金生活者が中心だ。1世帯当たりの世帯人員は、勤労者世帯で3.2人、無職世帯では2.3人となっている。

 だが 勤労者世帯と無職世帯では、収入の状況も支出の中身なども大きく違う。

 まず、収入の状況をみると、24年11月では、実収入は、勤労者世帯では51.4万円なのに対して、無職世帯では5.6万円でしかない。

 収入差が大きいのは11月が年金支払い月でないことによる。年金支払いがあった10月でも、実収入は勤労者世帯58.1万円に対して、無職世帯は47.5万円(このうち公的年金給付は2カ月分41.8万円)だ。

 11月は増加率でも大きな差がある。こうした差をもたらす最大の要因は、勤労世帯では世帯主の勤め先収入が49.5万円と大きく、かつ実質で1.3%増えているのに対して、無職世帯では定義によって世帯主の勤め先収入がゼロであることだ。無職世帯でも、世帯主以外の勤務先収入はあるが、額は少なく、伸び率がマイナスになっている。

 このように、勤労世帯と無職世帯では、賃金上昇の影響を享受しているか否かという大きな違いがある。賃金上昇がすべての世帯に同じように恩恵を与えているという錯覚に陥りがちだが、決してそうではないことに注意しなければならない。

 2人以上世帯のうちの3分の1強を占める無職世帯は、賃上げの恩恵に浴していないのだ。

(注1)「毎月勤労統計調査統計」では11月の実質賃金上昇率はマイナスだが、家計調査ではこのようにプラスになっている
(注2)11月の無職世帯の実収入で公的年金は、11月が年金支払い月でないため448円でしかない。なお、2024年で国民年金は満額で月額6万8000円だ。賃金や物価の上昇分は翌年の年金給付にスライドされる建前だが、マクロ経済スライドによって、少子化(現役世代の減少率)や長寿化(平均余命の伸び率)分を差し引いて調整される。

無職世帯、緊急でないものは買い控え
食料品切り詰め、修繕や家事サービスは支出増

 一方、支出額は、勤労者世帯では40.9万円なのに対して、無職世帯では27.4万円だ。世帯員1人当たりで見れば、勤労者世帯では12.7万円、無職世帯では11.7 万円で、あまり大きな差がない。ところが、物価高騰の影響はどちらのタイプの家計にも同じような影響を与える。だから、支出の伸び率や中身は二つのタイプの家計で大きく異なる。

 家計調査の11月のデータでは、実質消費支出の対前年同月比は、勤労者世帯が1.5%増なのに対して、無職世帯では2.1%の減となっている。

 また中身を見ると、食料の実質対前年同月比が、勤労者世帯では+1.8%となっている。それに対して無職世帯では-3.6%だ。米が-12.8%、生鮮肉が-12.1%などだ。項目の中には2桁の減少率になっているものがかなりある。

 生活をするためには誰もが食料品には一定の支出は必要なはずだが、無職世帯では食料品の価格高騰のために、実質支出を減らさざるをえない状況に追い詰められていることが分かる。