「仕事=私」というマインドは、人生に深刻な影響を及ぼす可能性がある。こう指摘するのは、マッキンゼー出身で、ウェルビーイング研究の第一人者ブラッド・スタルバーグだ。米国で大きな話題を呼んだスタルバーグの最新刊『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』が日本に上陸した。この本が指摘するのは、人生を消耗させる「思考の癖」だ。この記事では、本書の内容をベースに「自分らしさを失わず、仕事と私生活の調和を図る方法」を紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
「仕事がアイデンティティ」という状態
「仕事がアイデンティティ」というマインドが不健康な状態であると指摘するのは、マッキンゼー出身でウェルビーイング研究の第一人者であるブラッド・スタルバーグだ。
スタルバーグの新刊『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』では、仕事と適切な距離を保つことの重要性が強調されている。
何かに打ち込むあまり、それをアイデンティティと混同すると、不安やうつ病、燃え尽き症候群に陥りやすくなることは、膨大な数の研究結果からも証明されている。
(p.138)
大切な人や活動、プロジェクトに誠意を尽くすことは、豊かで意義のある生活を送るための重要なかぎとなる。問題は誠意を尽くすことではない。一つのものや努力している活動に執着するあまり、それがアイデンティティになってしまうことだ。何かをとことん突き詰めたいと思うのはいいが、やりすぎてはいけない。
(p.138)
仕事を含め、何か一つのことに打ち込みすぎて、その活動が自分のアイデンティティになってしまうのは健康面でリスクが高い状態なのだ。
「自分らしさ」は常に変化してよい
そうはいっても、仕事では常に成果を出すことが求められている。仕事との適切な距離を保ちつつ、高いパフォーマンスを発揮するためにはどうすればよいのだろうか。
スタルバーグは、世の中は常に変化しているのだから、状況に応じて柔軟にアイデンティティを再構築していくことが必要だと語る。
健康で高いパフォーマンスを維持している個人は、自分自身を何度も再構築することで、強くて耐久性のあるアイデンティティを維持しているのだ。
彼らは勇気を出して現在の状況をあきらめて、無秩序な状態に陥り、そしてその先にあるさらなる安定性とアイデンティティにたどり着く。こうした人たちはみな、アイデンティティを安定したものであると同時に変化していくものだと考えている。
(p.27)
変化の激しい世の中で、高いパフォーマンスを発揮し続けるためには、「自分はこういう人間だ」と執着してはいけない。うまくいかない状況になったら、今までの自分を手放して、新しい自分を作っていくことが大事になるということだ。
さらにスタルバーグは、「スペシャリスト(特定分野に特化した人)」よりも「ゼネラリスト(幅広い経験を持つ万能型の人)」の方が有利であると説明している。科学ジャーナリストのデイビッド・エプスタインの研究によるものだ。
エプスタインは、何百件もの研究から、ゼネラリストのほうがメリットがあることが証明されていると述べている。創造性が高く、健康面や体力面でよりすぐれていて、問題解決能力も高い傾向があるとのことだ。
(p.173)
一つの分野に執着せず、多様な経験を大切にすることが、高度な問題解決につながるというわけだ。
スタルバーグの主張を踏まえると、変化の激しい時代においては、状況に適応しながら自分自身をアップデートし続けることが求められる。「自分らしさ」とは、こだわるものではなく、成長とともに変化していくものなのだ。
だからこそ、私たちは仕事や役割に縛られるのではなく、多様な経験を積み重ねながら、自分なりの生き方を模索し続けることが大切なのだろう。それこそが、不確実な時代を生き抜くための最強の戦略なのかもしれない。
※本稿は『Master of Change 変わりつづける人』の内容を一部抜粋・編集したものです。