インベスターZで学ぶ経済教室『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第159回は、人生を変える「習慣づけ」のコツを伝授しよう。

コツコツ習慣は「歯磨きと一緒」

 桂蔭学園女子投資部のメンバー・久保田さくらの母親は、喫茶店経営と常連客に家計管理の相談を受ける。「小さくコツコツ」が苦手という女性に対し、とにかく習慣化が大切と説き、「なんでも歯磨きと一緒と思う」とコツを伝授する。

「人は繰り返し行うことの集大成である」という言葉がある。ギリシャの哲学者アリストテレスの考えをまとめたものとされる。良い習慣を身につければより良い人生の礎になるし、悪習は時間とエネルギーの無駄につながる。

 そんなことは誰でも分かっている。それでも怠惰や目先の心地よさに引っ張られてしまうのが人間であり、だからこそ「習慣づけ」は難しい。

 作中では「歯磨きと一緒と考える」という心構えが紹介される。やるのが当たり前、やらないと気持ち悪い感覚が定着すればこっちのもの、ということだろうが、これはトートロジーの感が否めない。「そこ」までどう持っていくかが問題だからだ。

 習慣をどう定着させるか。定番ながら効果が高い方法は「トリガーをつくる」だ。

 一番効くのはすでに習慣化されていることにオマケの新習慣をプラスする手法。いきなり「英単語の学習アプリを1日10分やる」と決めて生活の中にねじ込んでも、忘れてしまったり、面倒になったりして、挫折しかねない。

 だから「帰りの通勤電車に乗ったらアプリを開く」とルーティン化してしまう。そのうち電車に乗ってスマホを取り出せば自然と「英単語、やらなきゃ」となる。

高井さんの「電車内ルール」

漫画インベスターZ 18巻P161『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 ちなみに私は逆に「電車に乗ったらスマホは見ない」を習慣づけしている。急ぎのメールの返信でもなければ、代わりに本を読むか、車内や窓の外を観察するようにしている。「会話中・食事中・移動中」はスマホを触らないのをルールとして自分に課している。

「習慣のトリガー」に話を戻そう。トリガーには時間・場所・モノの3つの要素がある。要素を組み合わせて生活に組み込んでおけば、再現性が高まって「やりたい・やりたくない」といった気分に左右されずに習慣を作れる。

 私の場合、居間のソファ近くのテーブルには、各種リモコンと一緒に本を数冊積んである。「ソファ=場所」と「本=モノ」のトリガーを組み合わせて、スマホいじりやテレビのザッピングで時間を潰してしまうのを避ける仕掛けだ。

 テイストの違う本が常に3~4冊は「読みかけ」になっているので、気分によって手に取る本は変えられる。休憩タイムは自然と読書の時間になり、悪習を遠ざけるのに一役買っている。積読の山が邪魔な家族の評判はあまりよくないのが玉に瑕だ。

 大きな目標を立て、自分を鼓舞して偉業を成せる立派な人もいるだろう。だが、凡人には「明日から別人になる」と意気込んでも、自分を変えることは難しい。

 アリストテレスは「卓越さとは、行為ではなく習慣だ」という言葉を残している。

「繰り返し行うこと=習慣」の積み重ねは、資産運用の複利効果のように、長い期間をかけて人生を変える力になる。いきなり高望みせず、まずは小さな良い習慣の定着と、小さな悪習の撲滅から手を付けてみてはどうだろうか。

漫画インベスターZ 18巻P162『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 18巻P163『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク