『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第107回は、株価下落でパニックに陥る新NISA投資家へアドバイスを送る。

荒れ模様の相場に新NISA民は…

 主人公・財前孝史は同級生の松井から株式投資の相談をうける。松井は値下がりした保有株に未練が残り、いわゆる「塩漬け」して身動きが取れなくなっている。財前はいったん現金化したうえで、利益確定と損切りのルールをきっちり決める手法を提案する。

 最近、株式相場や円相場がちょっと荒れ気味だ。新NISAを機に投資デビューを果たした人の中には、初めての乱調相場で損失を被ったり、含み損が吹き飛んでしまったりした人もいるかもしれない。

 財前は作中で、保有株を「塩漬け」にしてしまった同級生を、投資に向いていないと断じる。この指摘は短期売買においては正しい。あらかじめ決めた利益確定と損切りのラインを守れないようではトレーダーとして心もとない。

 もっとも長期投資となると話は違う。ロボアド最大手のウェルスナビがサイトでまとめている「長期投資の3ポイント」がわかりやすいのでご紹介する。

 第1が「利益確定は行わなくてよい」。理屈の上では値上がり時に売って下げたところで買い直せばリターンを上積みできる。だが、タイミングの見極めは難しく、よほど運に恵まれない限り、ジタバタしても長期のリターンへの影響は小さい。

 第2のポイントは「短期的なマイナスのリターンは受け入れる」。アベノミクス相場以降、コロナショックの短期的下振れを除けば、株式相場は大きな調整に見舞われていない。ビギナーの中には「投資金額を大きくするほど儲かる」というイージーなイメージが定着しているかもしれない。

 だが、2割、3割といった下落が起きるのが株式相場の常だ。この10年ほどの上げ相場の方が異常だったと思っておいた方がいい。

 タイミングによっては、長期投資をはじめてみたら、いきなりマイナスのスタートとなる可能性はある。だが、長期投資は文字通り、20年、30年、40年といったスパンで果実を狙う戦略だ。最初の3年くらいは助走期間と考えて、損益を気にせず、コツコツと投資額を膨らませるのに専念した方が良い。

「株の塩漬け」より怖いものとは?

漫画インベスターZ 13巻P7『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 3つ目のポイントとして挙げられる「積立投資で心理的な罠を回避する」は、まさにこのコツコツの精神を表している。下げ相場の恐怖感や上げ相場の高揚感は、投資判断に歪みをもたらす。そこから距離を取る手段として機械的な積立投資は有効だ。

 心理的な罠については最近、「ひふみ」シリーズを運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人氏との対談で興味深い話を聞いた。

 相場急落で保有株や投資信託を売却して「不安の元」を断ち切る。相場がさらに下げれば、短期的に正しい判断だったと感じる。だが、問題はそこから大きくリバウンドした時。自分が売った価格より高い値段でももう一度買い戻せるなら良いのだが、「ほとんどの人はそれができない」と藤野氏はいう。

 自分の間違いを認めることになるし、「また下げたら怖い」という心理がブレーキになってしまう。結果、投資から降りてしまう。

 保有株の塩漬けも避けたいが、もっと怖いのは「お金の塩漬け」だ。身の丈を超えたリスクテークはご法度だが、市場に居座り、適切なリスクを取り続けることが長期投資では一番大切だ。

漫画インベスターZ 13巻P8『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 13巻P9『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク