アニメ『スラムダンク』の主題歌は
ビーイング所属アーティストが独占

 アニメとのタイアップでは、現代のアニソンに通じるような動きが起こる。それまでアニメの主題歌と言えば、子ども向けとして制作され、大人が聴くことを想定しない楽曲が多かった。

 しかし90年代には、アニメの主題歌を人気のアーティストが歌う機会が増え、アニメの主題歌がランキングの上位に位置するようになる。とくに『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ)の主題歌であるB・B・クィーンズの《おどるポンポコリン》は、1990年に最も売れたシングルとなり、その年を象徴する楽曲になる。そして、このB・B・クィーンズを企画した「ビーイング」こそが、90年代前半に躍進していく。

 90年代を彩ったドラマやアニメ、CMのタイアップをメインとした音楽プロモーションを多用したのが、ビーイングという音楽事務所である。

書影『令和ヒットの方程式』(祥伝社)『令和ヒットの方程式』(祥伝社)
博報堂DYグループコンテンツビジネスラボ 著

 B’zやZARD、WANDS、大黒摩季など、当時のランキング上位に常連のアーティストたちが所属していたのがこのビーイングだ。

 とくに、アニメに関しては、「すべての番組主題歌を自社系列アーティストが担当する」という戦略がとられていた。

 たとえば、1993年から1996年まで全101話が放映された人気アニメ『スラムダンク』(テレビ朝日)。放送期間中のオープニング2曲、エンディング4曲の計6曲の主題歌は、すべてビーイング所属のアーティストが担当した。

 タイアップは、テレビという圧倒的なメディアにおいて、生活者に繰り返し楽曲を聴かせることで、「みんなが知っている曲」を作り上げた。認知度の上がった楽曲は、カラオケで歌われ、さらに楽曲の認知度と消費が広まる――タイアップは、ヒットの方程式の初手に欠かせないものであった。

 また、当時限られた場所でしか観ることのできなかったMV(ミュージックビデオ)に代わり、タイアップによって、ドラマやCMの世界観やストーリーとともに楽曲を楽しむことができた。楽曲そのものを超える感情や思い出を生活者の記憶に強く残すタイアップは、認知向上だけではなく楽曲の魅力を倍増させる強力な手法だったのだ。