インベスターZで学ぶ経済教室『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから紐解く連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第161回は、富裕層の「VIP待遇」を考える。

舞台ハリー・ポッターのチケットがほしい!

 友人と上京していた主人公・財前孝史の携帯に藤田家の令嬢・美雪から電話が入る。急な予定変更を頼まれた財前は、帰りの飛行機の手配に気をもむ。美雪は財前に「ウチが頼めば何とかなる」と藤田家のコネで融通が利くことを匂わせる。

 新幹線にVIP枠が存在するのかは寡聞にして知らない。ただ、観劇やコンサートについては、高級ホテルのコンシェルジュに頼めば完売済みの公演でもチケットを入手できることがあるというのはよく聞く話だ。

 世界で約4000人が会員となっているコンシェルジュの国際組織「レ・クレドール」。その名前はフランス語で黄金の鍵を意味する。2本の鍵が交差したシンボルマークは「ゲストのためにどんな鍵でも開けてみせる」という含意がある。チケットの手配などにとどまらず、ネットワークを作って様々なサービスを顧客に提供しているという。

 2016年から18年にかけて駐在したロンドンでは、ウェストエンドの劇場街について、その種のホテルならではのサービスの噂を耳にした。

 当時は舞台劇『ハリー・ポッターと呪いの子』が開演したばかりだった。世界中からファンが集う超人気公演が「地元」で始まり、我が家の三姉妹もかなりのハリポタファンなのでチケット入手を試みたが、ソールドアウト続きでとても手に入りそうもなかった。

 職場でその話をすると、現地スタッフは「サヴォイあたりの常連になればチケットが手に入るよ」と笑った。クラリッジズやリッツ・ロンドンなどの超一流ホテルなら、上得意用にチケットを押さえているというのだ。

 もっとも、そのクラスだと宿泊料は1泊十数万円。そこまでのマニアでもないので、1年ほど様子見してチャンスを待っていたら、何とか帰国直前に家族で見に行くことができた。赤坂で講演中の日本版もいつか見てみたい。

コンシェルジュに頼まなくても…

漫画インベスターZ 19巻P7『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 VIP待遇の恩恵に浴したことはないが、対極のサービスはロンドン時代によく利用した。「TodayTix」は劇やミュージカルのチケットのネット販売アプリだ。私がお世話になったのは当日夕方に売り出されるファイヤーセール。

 人気公演でも売れ残ったチケットが投げ売りされるときがあり、100ポンド以上する席を25ポンドほどで入手したこともあった。操作は簡単なので、ロンドンやニューヨークに旅行する際はのぞいてみてはどうだろうか。

 漫画の作中では、財前がセレブ優遇は感じが悪いと否定的な反応を見せる。庶民のひとりとして気持ちは分かるのだが、高級ホテルが培ったホスピタリティーにはファンタジーのような魅力があるのも確かだ。

『祖母姫、ロンドンに行く』は著者の椹野道流と祖母のロンドン行を綴ったエッセイだ。「お姫様のような旅がしたい」と望む祖母はハロッズでの買い物、オリエンタル急行での食事、豪華アフタヌーンティーと夢のような5泊7日の旅を堪能する。

 ツアコン役の著者は祖母の気ままな注文とトラブルにてんてこ舞いになるのだが、その苦闘をサポートするホテルのバトラー(執事)の心配りが素晴らしく、最後には仕事の範疇を超えた小さな冒険譚まで繰り広げられる。

 超一流ホテルの裏側を垣間見つつ、愉快でロマンティックな旅気分を味わえる。ご一読を勧めたい。

漫画インベスターZ 19巻P8『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 19巻P9『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク