女性特有の健康課題にも一歩踏み込んだ施策を実施

 「こころの健康」への取り組みとして、20年に「テレワークうつ 予防チーム」を発足しストレスへのセルフケア支援を行ってきたが、従業員のWell-being向上を目的としたアルゴリズムを開発するため、23年には、Apple Watchの心電図アプリによって測定できる「心拍変動」から従業員のコンディションを可視化するプロジェクトを実施した。

 健康問題を抱えつつ仕事を行い生産性が低下している状態を「プレゼンティーイズム」というが、そのような状態にあるかどうかを毎日の心拍変動の変化によって分析し、対策を取るための研究を外部機関と共同で行った。

 日清食品グループの従業員約700人が、Apple Watchで毎朝30秒間、心電図を測定し、外部機関にデータを送信。約1分後にその日の自律神経の状態(自律神経活動、交感神経活動がどのような状態にあるかが分かるデータ)が各従業員にフィードバックされる。その後、共同研究パートナーが蓄積されたデータの分析を行った。

 日清食品グループでは現在、全従業員に対して、アンケート形式によってプレゼンティーイズムを確認しているが、この方法によって、より利便性が高く、客観的な測定が可能となった。

「データサイエンスと医療の掛け合わせによってプレゼンティーイズムを可視化する試みです。これは当社の重要なデータの一つとして蓄積されます。今後、このデータと、運動習慣や、食生活、睡眠などとの相関関係も分析し、プレゼンティーイズムに対する施策を考える予定です」と山崎室長は話す。

 また、女性も働きやすい会社づくりとして、女性特有の健康課題に対する健康経営施策も推進している。

「女性はライフステージによって生理痛やPMS(月経前症候群)、不妊、妊娠・出産、更年期などの健康課題を抱えています。そこで日清食品グループでは『Plus One Option』をテーマに、女性特有の健康課題の解決につながる複数のプログラムを用意し、自身の状況に合わせて選択できるようにしています」(山口主任)

 例えば「妊活・不妊治療と仕事の両立」オンラインセミナー(参加者満足度100%)、専門家へのLINE相談サービスの導入、希望者への女性向け子宮内フローラ検査キットの配布などを実施している。

 また、更年期に関する正しい知識を提供するため、男女問わず対象とした「更年期の基礎知識」オンラインセミナー(参加者満足度85%)も開催した。さらに、オンライン診療と低用量ピルへの費用補助など、女性の健康に対して一歩踏み込んだ具体的な施策を実施している。

 他にも東京本社の女性従業員用休養室に搾乳スペースを作ったり、ナプキンプロジェクトとして女性用トイレに生理用ナプキンを常備したりと、女性社員の割合が増加しつつある昨今は非常に好評だという。

創業者・安藤百福が掲げた企業理念「美健賢食」をデータサイエンスの力で「健康経営」に昇華東京本社・女性従業員用休養室の搾乳スペース

誰一人置き去りにしない健康経営を目指す

 日清食品グループは現在、従業員の健康数値や、健康経営施策の利用率、メンタルに関する数字、働きがいスコアなど、28項目にも及ぶ細かな数値を算出し、過去2年度の推移と26年度の目標値をホームページなどで公開している。

「健康経営がスタートして7年、まだ時系列で見てデータに大きな変化があるわけではありません。定量的なデータを把握することで、数値を改善するための施策を立案し実行に移しているので、今後この数値に変化が表れてくるものと考えています。誰一人置き去りにしない健康経営施策を作り、広げていきたい」と山口主任は話す。

創業者・安藤百福が掲げた企業理念「美健賢食」をデータサイエンスの力で「健康経営」に昇華

 健康経営は、企業の持続的成長、および企業価値向上のために不可欠な経営戦略である。日清食品グループのように、データサイエンスを活用し、客観的な数値によってPDCAを回しながら健康経営の取り組みを進めることができれば、生産性アップや組織活性化、従業員エンゲージメントの強化につながるだろう。ひいてはそれが企業の競争力向上となるのだ。