倒産の瀬戸際に先代の教えでたどり着いた「健康」「絆」「幸福」を追求する「健康経営」

働き手不足が深刻化する中、人材確保の対策の一つとして「健康経営」に注目する企業が増えている。人を大事にする会社探訪の第3回は、「健康は全てではないが、健康を失うと全てを失う」という先代社長の教えを基に進化してきた電巧社の健康経営哲学を取材した。(取材・文/医療ライター 井手ゆきえ、写真/カメラマン 原田圭介)

経営危機を教訓に経営理念を見直す

「健康は全てではないが、健康を失うと全てを失う」

 先代社長である父の教えを胸に、健康経営を実践しているのは、2028年に創業100周年を迎える電巧社(東京都港区)の中嶋乃武也社長だ。同社は、ビル用電気設備の商社業と配電盤製造業という二つの顔を持つ「電気のコンシェルジュ」として、顧客のあらゆるニーズにきめ細かく応じてきた。その守備範囲は前述の2領域から地続きの空調・電気工事のほか、システムインテグレーションやサイバーセキュリティーなどへも広がっている。

 健康経営を志向するようになったのは、バブル崩壊のあおりを受けた経営危機から脱するめどが立った頃からだ。大ざっぱな経営のツケが露呈し業績が悪化する中で、不良売掛金や不良在庫品の整理処分と不採算部門の縮小・閉鎖、人員整理という大手術を断行しつつ、残った社員と共に生き残りを懸けた多角化へ向かう大転換を迫られる。

「倒産」の2文字に脅かされながらも数年がかりで既存事業と地続きの分野を開拓し多角化が実を結び始めたとき、中嶋社長は改めて今後の経営理念と成長戦略について考え抜いたという。そこでたどり着いたのは、「『健康』『絆』『幸福』を追求し、全社員が人生の成功者になる」という経営理念であり、「会社は、それを目指す社員が集う『場』である」という信念だった。

倒産の瀬戸際に先代の教えでたどり着いた「健康」「絆」「幸福」を追求する「健康経営」電巧社 中嶋乃武也社長
「健康は全てではないが、健康を失うと全てを失う」という先代社長の教えが壁に書かれている

 同社は今では、経済産業省が認定する中小規模法人部門の「健康経営優良法人トップ500(通称・ブライト500)」に21年から4年連続で認定されるブライト500常連企業となっている。

 経営危機にあった同社は、会社を立て直す過程で、いかにして経営理念を実現したのか。その中で健康経営をどうやって実践し、経営にどう活用したのか。次ページから詳しく紹介する。