
健康経営が重要な経営課題の一つだということは理解している。しかしいざ実践するとなると、どこから、何を始めたらいいのか分からないという企業も多いだろう。日清食品ホールディングスでは、徹底したデータ活用によって健康経営を見える化して推進。その具体的な取り組みを紹介する。(取材・文・写真/嶺竜一)
企業理念「美健賢食」の精神に基づき、健康経営を経営課題に組み込む
日清食品の創業者である安藤百福(ももふく)は、企業理念の一つとして「美しく健康な体は賢い食生活から」という意味の「美健賢食」という言葉を掲げた。
日清食品グループでは、この理念の下、全社員が心身の健康を保持・増進し、能力を最大限に発揮して業務に当たることを、経営における最重要課題の一つに位置付け、健康経営を推進してきた。その結果、子会社を含むグループ4社が「健康経営優良法人(ホワイト500)」に2019年から7年連続で認定されている。
日清食品ホールディングスが健康経営への取り組みを本格的にスタートしたのは18年8月。安藤宏基代表取締役社長・CEOが責任者となり「日清食品グループ健康経営宣言」を公表したことに始まる。
その経緯について、日清食品ホールディングス健康経営推進室の山崎貞道室長はこう語る。
「従業員とその家族のWell-being(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)の向上と、日清食品グループのパフォーマンスの向上を同時に達成することが目的です。ただ、こうした考えは突然出てきたものではなく、1958年の創業当時から受け継がれている当社のDNAなのです」
同じく健康経営推進室の山口美希主任は「ただ、健康経営宣言を出した当時はまだ、データの一元管理に着手した段階で、従業員の健康に関する数値の平均値を把握しておらず、社会の平均と比べてどのような傾向にあるのかといったことすら分かっていませんでした。健康経営に取り組むに当たり、まず当社の従業員の健康状態を把握することからスタートしました」と話す。

(写真左から)山崎貞道室長、山口美希主任
そこで同社では、健康診断データをデジタル化して統計・分析を行うことで従業員の健康状態を把握した。だが、これは同社の健康経営の取り組みの第一歩でしかなかった。
次のステップでは、スマートウオッチなどのツールも活用して、さまざまなデータを収集し、組み合わせて分析することで、従業員に対して自分の健康状態に何が影響を及ぼすのか、どうすれば改善できるのかを、客観的な数値の裏付けとともに明確に示したのだ。まさにデータサイエンスの手法である。
次ページからは、データサイエンスの活用によって加速し進化し続けている日清食品グループの健康経営の取り組みを、詳細に紹介する。