「守破離」という手法

まず守破離という進化のリズムについて考えてみたい。

守破離は、芸道や武道における修業のプロセスを指す言葉だ。「守」は師の教えを忠実に守ることで、基本を学ぶ段階。「破」は自分で考え工夫することで、自立の段階。そして「離」は独自の新しい世界を確立することで、創造の段階を指す。

そもそもは、『利休百首』に出てくる言葉として知られている。

 「規矩(きく)作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな」

茶の湯においてのみならず、半人前から一人前、そして達人となっていく成長のプロセスを示したものである。日本人であれば、どこかで聞いたことがある「日本流」の元型と言っていいだろう。

もちろんこの3つのリズムを実践すれば、誰でも必ず成長するわけではない。あまり知られていないが千利休はこの百首の中で、次の一首も詠んでいる。

 「上手には すきと器用と功績むと この三つそろふ人ぞ能(よ)くしる」

上達するためには、3つの要素が必要だと言っている。「すき」すなわち意欲(Will)、「器用」すなわち基本的な能力(Skill)、そして「功積む」すなわち努力(Effort)の3つである。大谷翔平選手であろうと、藤井聡太棋士であろうと、フツーの人間であろうと、この3つが成長の必要条件となる。

そのうえで守破離というリズムを実践する。その際には、まず「守」、つまり「型」を身につけることから始めなければならない。そのうえで「破」、つまり「型」を破らなければならない。この2つは学習(Learning)と脱学習(Unlearning)のプロセスとして、海外においてもよく知られている。

では、「離」はどうすればいいか。これこそ「イノベーション」、すなわち新機軸を生み出すプロセスである。ただしそこには、定義上「型」は存在しない。とはいえ、やみくもに新しいことを試してみても成功はおぼつかない。日本流の「離」の奥義を、しっかりと見極める必要がありそうだ。

さらにもう一つ、大きなチャレンジがある。「本を忘るな」という戒めである。基「本」を破り、基「本」から離れても、基「本」を忘れてはならないと言うのはなぜか。どうすれば、そのような矛盾したことが実現できるのか。

「本」すなわち伝統から、「離」すなわち革新が生まれる。逆に言えば、伝統を大切にしない限り、革新は生まれようがない。禅問答のように聞こえるだろうか。

 

◉構成・まとめ | 宮田和美 (ダイヤモンドクォータリー編集部)

 

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伝統から革新を生み出すには?