いまや企業にとって生成AIの活用は必須項目となっている。

しかし新人社員を教育するのと同じくらいのコストが必要となっているのが現状だ。生成AIと比べて自律的、能動的に複雑なタスクをこなすAIエージェントにしても、人間の指示がなければ動かない。

そこで、人間の介入が最小限にとどまり、事業や業務の計画から実行までを一気通貫に行うエージェント型AIに注目が集まっている。エージェント型AIの指示に従い、個別のAIエージェントが連携して業務を遂行する、いわば、マネジメントするAI、AIのプロジェクトマネジャーといえる存在だ。

AI活用に苦慮する企業ほど、エージェント型AIを導入すべき──AIと自動化に関する専門家で、書籍『エージェント型AI』(フォーティエンスコンサルティング / NTTデータ・コンサルティング・イニシアティブ訳)の著者、パスカル・ボーネット氏のメッセージは極めてシンプルだ。

ボーネット氏は来日時、エージェント型AIに関する講演で、エージェント型AIを活用する具体的な方法を提示した。本連載では、ボーネット氏が提示したエージェント型AIがもたらすビジネス変革のあり方と課題について詳報する。

エージェント型AIの具体的活用例

一つのエージェントが何をできるかについて、企業での非常に具体的な活用例をいくつか紹介します。

経理・財務では、例えばサプライヤーから届く請求書を収集し、その請求書と発注書を照合し、チェックが通ったら直接支払いを実行するエージェントを活用できます。

人事では、候補者の履歴書をスクリーニングし、候補者を絞り込み、面接を組むメッセージを送り、フィードバックを送り、契約に向けたやり取りを管理するエージェントを活用できます。

サプライチェーンでは、在庫を管理し、需要を予測し、適正な量の製品を発注し、在庫切れを防ぐエージェントを活用できます。挙げればきりがありません。

私のチームと私が行った数百件のエージェント型AI導入事例に基づいて言えることが一つあります。エージェント型AIの恩恵を受けられない機能も業界も一つもないということです。

一つも、本当に一つもありません。「エージェント型AIは自分には関係ない」と言える人は誰もいないのです。まさに全員に関わるものです。

エージェントのチーム──マルチエージェントシステム

エージェントで何ができ、どう機能するかを話してきましたが、ここからはエージェントのチームについて考えましょう。

ここでも人間との類似性があります。私たち人間は、多くのことをやろうとしたり、多くのことの専門家だと言ったりしても、実際にはすべてに精通することはできません。マルチタスクをすると、基本的にすべてが中途半端になります。

専門化は非常に重要なことであり、私たちは何世紀にもわたるマネジメントの中でこれを学んできました。エージェントでもまったく同じことができます。エージェントを一つの特定分野に特化・専門化させ、チームとして働かせることで、各エージェントが個別に生み出す価値の合計よりもはるかに高い価値を生み出すことができます。

つまりシナジーを生み出すのです。これは企業で行っていることとまったく同じです。経理もマーケティングも調達もすべて一人でこなしてエキスパートになれる人はいません。それぞれの機能に特化した人材が連携して働いています。エージェントでも同じことをします。特化した専門エージェントを作るのです。

ニュースレター自動化の実例

書籍の中で、共著者と私が行った非常にシンプルな実験について説明しています。ニュースレターの作成です。私はずっとニュースレターを発行してきました。基本的にテクノロジーに関する最新ニュースや見解を説明するもので、毎週12時間以上かかっていました。

ニュースレターの作成とは、関連性が高く重要なニュースを特定し、そのニュースを要約し、自分自身のインサイトを加え、すべてをニュースレターにまとめ、配信する——この12時間の作業すべてです。今では、これらすべてを行うエージェントのチームを構築しました。7つのエージェントです。

1つ目のエージェントはウェブ上の記事を収集する担当、2つ目はどの記事がより重要かそうでないかを見極める専門、3つ目は最も重要な記事を要約する担当、4つ目は他のエージェントの仕事をレビューし監督する役割です。

お分かりいただけると思いますが、特化したエージェントが互いに補完し合うだけでなく、エージェントの仕事をレビューする仕組みもあるのです。最終的に私たちが行うレビューは最小限で、意見の相違がある部分にのみ集中すればよいのです。これは科学的にも証明されています──私の研究で、エージェントが協力して働くとシナジーを生み出し、個々のパフォーマンスの合計よりもはるかに高い成果を出すことが分かっています。

最終的に、私たちのニュースレターはグーグルで検索できます。「Agentic Intelligence Newsletter」という名前で、毎週7つのエージェントによって作成されています。私はその上に自分自身のコメントを加えますが、95%はエージェントによって作られています。ウェブで見つけて購読できます。現在、約40万人の購読者がいます。非常に好評で、よく受け入れられています。

一つのエージェントが助けとなり、エージェントのチームが変革をもたらします。エージェントはチームメイトやチームメンバーとしての存在であり、エージェントのチームは基本的にデジタルワークフォース(デジタル労働力)と呼ばれるものです。これが企業や皆さんにとってどれほど大きな可能性を持つか、想像してみてください。

企業におけるエージェント活用──既存プロセスの改善 vs 新規ビジネス創出

企業でエージェントを活用する最善の方法について話しましょう。ほとんどの企業は、既存プロセスの改善にエージェントを使っています。

例えば銀行の住宅ローンプロセスを考えてみてください。顧客から情報を収集し、ローンを提供するかどうかを判断するため、信用情報や銀行口座情報を集め、返済能力を見極める──この非常に長いプロセスです。このプロセスは、エージェント型AIによって大部分を自動化できます。

しかし、このプロセスは既存のプロセスです。銀行はすでに行っています。既存プロセスにエージェント型AIを適用すれば、20〜60%の効率化が見込めます。しかし、これは企業にとって最大のチャンスがある場所ではありません。最大のチャンスは、エージェントを使って新しいビジネスを創出することにあります。

いくつかの例を挙げましょう。1つ目は、24時間365日稼働する眠らない新規ビジネスの創出です。今まで市場規模が小さすぎて人を雇って対応する意味がなかったセグメントに、新しい支店を作ることを想像してください。エージェントのコストはほぼゼロに近いので、24時間365日稼働させることができます。

例えば、いつでも誰でも利用できるオンラインのデジタルドクターを考えてみてください。すべての人の問題を解決できるようなものです。これはエージェントがあるからこそ作れる新しいビジネスです。新しいビジネスラインを創出するチャンスです。

この分野で私がよく見るのは、クライアント企業が既存ビジネスのデジタルツインを構築するケースです。大企業の問題は、レガシー組織にあることが多いのです。レガシービジネスの変革は困難です。ではなぜ、既存ビジネスのコピーを100%デジタルで作らないのか?

特定のニッチ市場において、エージェントだけで会社のコピーを運営するのです。市場全体を任せるわけではありませんが、プロセスやクライアントをエージェントだけで対応できることを実証できます。これは実験のようなものですが、デジタル企業で成功した自動化プロセスから多くのインスピレーションを得て、レガシービジネスに徐々に取り入れていくことができます。レガシービジネスをモダナイズする素晴らしい機会です。

エージェント型AIで市場をリードするにはパスカル・ボーネット
AIと自動化に関する受賞歴のある専門家、著者、基調講演者。複数の賞を受賞し、世界のAI、自動化の専門家トップ10 に定期的にランクイン。また、200 万人以上のソーシャルメディアのフォロワーを持つインフルエンサーでもある。マッキンゼー、EYで20 年以上にわたり上級管理職を務め、両社で「インテリジェント・オートメーション」部門を設立・主導。この間、世界中の数百の組織に対してAI と自動化の試作を実施し、業界全体の変革を推進した。

最大のチャンス──メインエージェントの構築

では、この時代に企業にとって最も重要なチャンスと、今すぐポジショニングを取ることの重要性についてお話しします。銀行の例を取りましょう。

私は銀行であり、クライアントが話しかけたくなるような、信頼できるエージェントを構築します。なぜならそのエージェントはプロアクティブであり、非常に親密な関係を作り上げるからです。

その結果、銀行のクライアントは全ての銀行口座とクレジットカードをこのエージェントに接続したいと思うようになります。口座間の送金を助けてもらい、全口座の一覧を把握するためです。お分かりでしょうか?

この他の全てのエージェントに接続するメインエージェントを作れば、基本的に勝ちです。なぜなら、クライアントとの関係を持つのはあなただけだからです。意思決定はあなたの手の中にあります。他の銀行はすべて、あなたのエージェントが使う単なるパイプ、ツールにすぎません。あなたが市場をリードし、市場を制するのです。どの企業でもこの取り組みを始めることができます。

累積的知能の優位性(インテリジェンス・コンパウンディング)

非常に重要なポイント、インテリジェンス・コンパウンディング(知能の複利効果)についてお話しします。

コンサルタントとして、あるラグジュアリー・プレミアムブランドの仕事をしていたときの話です。バッグ、ハンドバッグなど、高級品を販売している企業です。その企業のために、サプライチェーンを管理するエージェントを構築しました。

各製品の需要予測、在庫切れを防ぐための適正発注量の管理、そして在庫過多の場合の値引き管理です。在庫が多すぎる場合、値引きして販売しキャッシュフローを解放するのです。このエージェントを作成し、非常にうまく機能していました。クライアントもとても満足していました。多くの製品でうまく機能していました。私たちは離れました。

8か月後、クライアントから電話がかかってきました。「パスカル、大問題です。あなたのエージェントがうまく機能していません。エージェントのせいで数十万ドルの損失が出ました」と。私は分析に行きました。

すると、エージェントは私たちが期待した通りのことを正確に実行していたことが分かりました。何が起きたかというと、ある特定のカテゴリーの商品について、過去8か月間、棚に置いたまま売れていない商品があるとエージェントが特定したのです。こういう場合どうするか?値引きします。より多く売って在庫を解放し、キャッシュフローを確保するのです。エージェントはまさにそれを実行しました。完璧です。

しかし、その商品はワインだったのです。そのワインは熟成中で、時間とともに価値が上がるものでした。この特定の種類の商品に対しては、値引きすべきではなかったのです。熟成させるべきだったのです。

もちろん、私たちはすぐに気づき、エージェントを停止させ、「熟成する資産」という特殊なカテゴリーの商品っ──時間とともに価値が上がるもの——については、棚に残っていても値引きせず、そのまま置いておくようにとエージェントに教えました。

私たちは組織としてこの経験から多くを学びました。エージェントもまた学び、設計を修正しました。企業は数十万ドルを失いましたが、CEOは私にこう言いました。

「パスカル、ありがとう。チームと一緒に来て問題を解決してくれてありがとう。最も重要なのは、組織としてこの教訓を学んだことだ。そして何より重要なのは、エージェントがそれを学んだことだ。今やエージェントは以前より賢くなっている。この教訓は数百万ドルの価値がある——数十万ドルの損失ではなく。競合他社はこの教訓を得ていないのだから、私たちは大きくリードしている」と。

数百万ドルどころか、おそらく数千万ドルの価値があります。インテリジェンス・コンパウンディングの核心はここです。エージェントの構築を早く始めれば始めるほど、エージェントは早く学習し、より賢くなり、より多くの価値を提供します。早く始めれば始めるほど、まだ始めていない競合他社に対して大きなアドバンテージを得られるのです。

早く始めること。これが市場をリードする方法です。

◉構成・まとめ|滝川洋平
◉撮影|久世和彦

【関連記事】

企業が生成AIよりも「エージェント型AI」を使うべき理由