前回は、エージェント型AIの推進が思うように進まない企業に共通する構造的な盲点を明らかにした。
業務設計や人材育成といった現場レベルの課題に目が向く一方で、活用方針・ガバナンス・ITアーキテクチャを含む5つの領域を全社横断で動かす必要があり、ここに経営層のコミットメントが求められる——これが本質的な問題だという結論に至った。
では、その覚悟を持った企業は、次に何をすべきか。
「何から手をつけるか」「どう設計し、どう実装するか」──本稿では、エージェント型AIによる価値創出を確実に成功へ導くための4つのステップを、実践的な視点から論じる。(里 泰志、中川 雄介 フォーティエンスコンサルティング株式会社)
エージェント型AIが企業にもたらす価値
エージェント型AIへの取り組みを進める企業の多くは、効率化を目的として導入を進めてしまっているのが現状だ。この発想では、課題解決の出発点が必然的に「現状の業務」になり、現在のプロセスが前提になってしまい、かかる時間やコストを削ることに心が奪われてしまう。そして行き着く先は、「人がやっていた業務をAIで代替する」という思考だ。
確かにこの取り組みは、得られる成果は測りやすく、現場にも実感されやすい。しかし本質的には、AIによる業務改善、生産性向上はあくまで現場課題の解決にとどまるものだ。結局はこれまで人がやっていた領域から脱しておらず、この革新的な技術を十分に生かせているとは言えない。解くべき問いは、「いかに効率化するか」ではないのだ。
エージェント型AIは、実現したい経営成果を起点に据えてはじめて、本来の価値を発揮する。「どのようにビジネスを変革し、将来的な競争優位を築くか」「これまでコストや人手の制約から諦めていたことを、どう実現するか」——こういった、本来解くべき問いから出発する企業にとっては、エージェント型AIは効率化にとどまらず、事業変革をもたらす。
エージェント型AIと人の協働
エージェント型AIの価値を最大限引き出すには、AIに個別の業務を代替させるだけではなく、新たな業務プロセス全体のアーキテクチャ(設計)が必要となる。人間が行っている既存業務をAIに切り出すだけでは不十分で、AIが実行することを前提として業務を設計し直さなければならない。
つまり、エージェント型AIは人とフラットな関係で協働する存在である、という考え方に頭を切り替える必要がある。AIを最大限に活かしつつ、人間にしかできない業務に人間の力を集中させる業務設計をどのように構築するかが、成功のカギを握るのだ。
この考え方は、現在のエージェント型AIの限界を考慮すると、特に重要であるといえる。ルールベース(人間があらかじめに与えた条件や規則に則ってAIを動作させること)の処理、情報の要約・抽出、文章の生成などは、AIは人間をはるかに凌ぐ速度で処理できる。一方で、明確に人が担うべき領域がある。ルールベースだけでない文脈を踏まえた繊細な意思決定、関係者との調整、例外処理——これらは、現時点では人間の判断が不可欠な領域だ。
エージェント型AIを業務に組み込むことを前提として、AIと人間がそれぞれの強みを活かす——それが目指すべき業務の姿である。
価値創出を成功に導く4つのステップ
エージェント型AIによる価値創出を成功に導くには、場当たり的な取り組みではなく、体系的な実践が不可欠だ。フォーティエンスコンサルティングでは、その実践を以下の4つのステップで整理している。
Step1:適切なエージェント活用の機会を選定する
エージェント型AIの導入は、適切な機会を特定することから始まる。候補となる機会を棚卸しして、ビジネスへのインパクト、実現難易度の2軸に基づいて評価し、優先順位をつけていく。また、エージェント型AIが得意でない領域に限らず、規制上エージェント型AIに任せるべきでない領域を明確にしておくことも必要だ。
実践のポイント:
• インパクトは大きいが実現難易度は低く、短期間、低コストで確実に成果を出せる「クイックウィン」から始める
• 最初のケースは短期間(3~6カ月以内)で明確に測定可能な効果を示せるケースを選定し、組織内に前向きな雰囲気を醸成する
• インパクトが大きい一方で実現難易度が高いケースは、中長期の取り組みとして戦略的に仕込む
Step2:エージェント型AIの役割と能力を明確にする
エージェント型AIには複数のレベルに定義することが可能だが、ここでは、業務への適用が現実的な2つのレベル——「インテリジェント・プロセス・オートメーション」と「エージェント型ワークフロー」——について論じる。
LLM(大規模言語モデル)を搭載し、文脈を踏まえた推論や高度なタスク遂行を可能にしたものを「エージェント型ワークフロー」、それに対し、機械学習モデルやNLP(自然言語処理)に基づいて確定的な処理を行うものを「インテリジェント・プロセス・オートメーション」と定義する。
今日ではAIというとLLMを前提に考えがちだが、これらのエージェント型AIは特性もコストも異なり、タスクの性質に応じて明確に使い分けるべきである。
それぞれのエージェントが適するタスクを、タスクの予見可能性(作業内容・手順をどの程度事前に定義できるか)、エラー感度(アウトプットの正確性がどの程度求められるか)、インプットの多様性の3つの観点でまとめると以下の表のようになる。

実践のポイント:
• タスクの特性に応じ、業務の各プロセスに適したレベルのエージェント型AIを割り当てる
• 一連のタスクを一度に自動化するのではなく、個別のプロセスごとに自動化を進める
Step3:成功に導くアーキテクチャを描く
技術的な構築に先行して「何をもって成功とするか」を定義することを忘れてはいけない。ビジネス目線と技術目線の2層でKPIを設定し、また、定性的な目標も設定することが望ましい。
その上で、現状の課題・制約と業務で達成したい目標を照らし合わせ、あるべき業務プロセスを描く。先述のとおり、現状のプロセスを自動化するのではなく、業務で実現したいことから逆算して理想的なプロセスを描くことが成果を最大化する。
業務プロセスの実現に向けては、アーキテクチャの設計が肝となる。ここでは、マルチエージェント、すなわち、それぞれの専門性を持ったエージェント型AIが連携するアーキテクチャの方が性能に優れることを述べておきたい。また、自動化に拘りすぎず、人との協働も適切に組み込まれるべきである。
実践のポイント:
• アーキテクチャに先立って成功を明確に定義する
• 従来のプロセスを自動化するのではなく、ビジネス目標に照らし合わせた理想的なプロセスを描く
• マルチエージェントかつ、人との協働を組み込んだアーキテクチャを設計する
Step4:エージェント型AIを実装する
エージェント型AI実装の成功のカギは、技術レベルではなく定義と構造の綿密さにある。すなわち、役割や動作、規則などを明確に定めることが不可欠だ。ここでは、これらを包括的に定めるための方法論として、以下のAGENTフレームワークを紹介する。
• Agent Identity:どんなエージェントか
• Gear & Brain:何がエージェントを動かすか
• Execution & Workflow:エージェントはどのように機能するか
• Navigation & Rules:エージェントはどのように決断するか
• Testing & Trust:エージェントを改善・拡張する方法はなにか
昨今、エージェント型AIのプラットフォームはノーコードからフルコードまでさまざまなものが市場にあふれているが、AGENTフレームワークはどのようなプラットフォームにも適用可能な普遍性を備えている。最適なプラットフォームの選択に時間をかけるのではなく、まずは小規模でクイックに実装をはじめ、学びながら拡大・移行する進め方が望ましい。
実践のポイント:
• エージェント型AIの役割や動作を正確に定義することが成功のカギとなる
• AGENTフレームワークに沿って必要な要素を包括的に定めることが可能である
• まずは小規模に実装に着手し、学びを得ながら拡大していくことが競合他社への先行につながる
今回は、より実践的な目線で4つのステップを紹介したが、これらは一度で完結するものではない。実装を通じて得られた学びは、次のStep1へのフィードバックとなる。このサイクルを継続的に回すことが、エージェント型AIによる価値創出、そして企業経営における持続的な競争優位へとつながるのだ。
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