AI技術の急速な進化により、膨大なデータからコンテクスト(文脈)を抽出し、戦略資産として構造化・蓄積することが現実的になってきている。データドリブン経営が新たなフェーズへと移行する中、価値創造の源泉として自社独自の「エンタープライズデータ」に注目が集まっている。そこからいかにコンテクストを掘り起こし、自社の価値を伝える「物語」を紡ぎ出していくのか。その方策を探るべく、ダイヤモンドクォータリーは2026年4月20日、ダイヤモンドクォータリー エグゼクティブ・セミナー「データに眠る真価を引き出す自社ならではのコンテクスト創造」を開催した(主催:ダイヤモンド社 メディア局、協賛:プレイド)。
セミナーでは、AI社会実装の最前線に立つ松尾研究所取締役副社長の金剛洙氏とプレイド執行役員CTOの牧野祐己氏を迎え、AI活用のあるべき姿を考察。本稿では、金氏の基調講演と2人のクロストークセッションの模様をレポートする。
飛躍的な進化を遂げるAIの現在地
AIはいま、どこまで進化しているのか——。基調講演に登壇した金剛洙氏は、まずAIの現在地を象徴する一つのニュースを紹介した。
2026年4月、生成AI「Claude」で知られるアンソロピックが最新AIモデル「Claude Mythos」の一般公開見送りを発表した。同モデルが社会インフラ級のソフトウェアの脆弱性を数千件発見し、その能力が悪用される懸念などもあり、「一部のパートナー企業のみに利用が限定されている」という。
一方で、同社は続々と新たなAIモデルを公開している。金氏は、その一つである自律型AIエージェント「Claude Cowork」のデモ動画を紹介。レシート画像の読み取り、支出別の分類、集計用スプレッドシート作成までを自動で行う様子を見せながら、「若手社員や秘書が担ってきたような仕事を代替できるレベルにまで進化しています」と解説した。
松尾研究所 取締役副社長東京大学 松尾研究室 学術専門職員
MK Capital 代表取締役社長CEO・マネージングパートナー(VCファンド)
PLUGA AI Asset Management 執行役員
金 剛洙氏
東京大学工学部卒、同大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻修了。2020年より、松尾研究所に参画し、機械学習の社会実装プロジェクトの企画からPoC、開発を一貫して担当。その後、社内外の特命プロジェクトを推進する経営戦略本部を立ち上げ、統括。また、AI・知能化技術の応用により成長の見込めるベンチャー企業への投資に特化したVCファンドを新設し、代表取締役を務める。松尾研究所への参画以前は、シティグループ証券にて、日本国債・金利デリバティブのトレーディング業務に従事。
アンソロピックのモデルに限らず、AIの能力は飛躍的に向上している。事実、国際数学オリンピックや国際プログラミングコンテストにおいて、オープンAIやグーグルのAIモデルが金メダル級のスコアを獲得している。アメリカでは、こうしたAIの高性能化が雇用に影響を及ぼし始めており、「テック企業がプログラマーやエンジニアの採用を抑制し、有名大学でコンピュータサイエンスの学位を取っても就職できない時代に入りつつある」という。
高性能化するAIが引き起こしている問題は、それだけではない。生成AIは、文章や画像だけでなく、動画まで作成できるレベルに達しているが、この生成AI動画に関しては、著作権や肖像権を含む権利処理面でのリスクを指摘する声は大きい。
AIの開発競争にはもう一つ、別な側面もある。それが「クローズドモデル」と「オープンモデル」の争いである。前者は前述したアメリカの3社のモデル、後者は中国の新興AI企業ディープシークのモデルがその筆頭といえる。
金氏は、2025年の東京大学理科三類の入試でオープンAIとディープシークのAIモデルがいずれも合格点をマークした事実に触れ、「性能面では常にクローズドモデルが先行していますが、3カ月程度でオープンモデルが追い付いています」と指摘。性能面でオープンモデルと遜色なく、安価に使えてチューニングもできることから「世界中でディープシークを使う動きが広がっており、今後も米中のAIモデル開発競争は熾烈になっていくでしょう」との見立てを示した。







