実際に経験した出来事を並べて比較してみると、よい人生だったという人のほうが、わが子を事故で亡くしたり、配偶者が勤めていた会社が潰れて経済的に困窮するなど、悲惨な目に遭っていることも珍しくありませんでした。

 同じような出来事を経験しても、それを前向きに受け止める人もいれば、後ろ向きに受け止める人もいます。結局のところ、身に降りかかってきた出来事をどう受け止めるかによって、人生の満足度が違ってくるし、日頃の気分も違ってくるのです。

未来は過去の意味づけを基につくられていく

 働き盛りを過ぎる頃、あるいは子育てから解放される頃になると、時間的にも気持ちのうえでも余裕ができ、人生を振り返ることが多くなると思います。人生を振り返るというのは、心理学的に言えば自伝的記憶をたどるということになります。

 子ども時代にこんなことがあった、青春時代にこんなことがあった、仕事ではこんなことがあった、大人になってからの私生活ではこんなことがあったなどというように、自伝的記憶には無数のエピソードが詰まっています。

 前向きの人生を歩んでいくには、過去から現在に至る自己物語を前向きの物語にしていくことが大切となります。過去のことなど気にしないで明るい未来を思い描こうなどと言われることがありますが、未来予想図は過去のデータを基に描かれるのであって、過去と切り離して描かれるようなものではありません。

 事業などでも、たとえば商品の需要予測は、これまでの売り上げ実績を基に行われるのであって、これまでの実績を無視して勝手に行うことはできません。それと同じく、「自分の人生、この先こんな感じになっていくだろうな」といった未来予想図は、過去の出来事が無数に詰まっている自伝的記憶を基に描かれます。だからこそ、自伝的記憶をポジティブな視点から整理し、前向きな自己物語を生きられるようにする必要があるのです。

 過去から現在に至る自己物語の流れが後ろ向きだと、その延長線上にある未来も、納得のいかない人生、後悔だらけの人生といった流れのもとに、夢も希望もないものとして思い描かざるを得ません。