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人生の終盤に差し掛かる60歳。仕事の一線から退く人も少なくないが、残りの人生をいかなる心構えで生きていけばいいのか。齋藤孝氏は、井上尚弥、ニーチェらからヒントを得たという。※本稿は、齋藤孝著『最強の60歳指南書』(祥伝社新書)を一部抜粋・編集したものです。

井上尚弥選手から学ぶ生き方
12ラウンド戦える体力づくり

 人の一生を仮に90年と考えると、「序盤」(30歳まで)、「中盤」(60歳まで)、「終盤」(90歳まで)と3分割することができ、その中で60歳は中盤となる節目です。これからいよいよ終盤を迎えることになります。

 私は“モンスター”井上尚弥選手の試合を会場で生観戦するほどボクシングが大好きです。ボクシングの試合というのはご承知のとおり、フルラウンドが12回です(井上選手は早い回で相手を倒してしまうことも多いのですが)。

 これを人生にたとえるなら、最初の4ラウンドまでが30歳、続く8ラウンドまでが60歳。いよいよ試合の終盤へ突入するという節目ということになります。

 最終12ラウンドへ向けたラスト4ラウンドというのは、試合運びの中である意味もっとも大事な時間になります。積み重ねてきた練習をどう発揮し、ここでどうまとめていくのか――。人生でいえばそれまでの40代、50代でどんな経験を重ね、それを60歳以降にどう発揮できるのかが問われるのです。

 ボクシングIQが高いことで知られている井上選手の闘い方は、じつに高度で重層的です。考え抜いた戦略と持ち前の技術で試合を運び、イレギュラーなことが起これば瞬時に対応します。

 そもそも戦略を実現するためのパンチ力が破壊的ですが、それを担保する日々の努力の蓄積は、私たちファンの想像を絶するものがあるはずです。

 12ラウンドという時間を完全燃焼して戦う姿は、志を持たずに漫然と人生を流して生きている60歳とは正反対ということになります。

 還暦以降を生きるということは、9ラウンド以降も試合を続けていくということです。これからも学びを続け、体験を続け、挑戦を続け、考えることを続けなければなりません。

 試合の終盤というのは、どの選手にとっても思った以上に長い時間です。60歳にはまだ4ラウンドも残されているのです。その時間をどう闘い、人生の終盤をまとめるのか。それを考えて実践してくのは私たち自身ということです。

ニーチェ的な発想では
60歳以降はクリエイティブな時期

 60歳がいかにクリエイティブな可能性を秘めた年齢なのか、それを示す考え方を哲学者・ニーチェが『ツァラトゥストラはかく語りき』の中に残しています。