それに対して、過去から現在に至る自己物語が前向きであれば、その延長線上にある未来も、納得のいく人生、悔いのない人生といった流れのもとに、希望に満ちた楽しみなものとして思い描くことができます。
だからこそ、この先をよい人生にしていきたいなら、過去から現在に至る自己物語が前向きのものになるように、自伝的記憶を整理しておく必要があるのです。
そこで大事なのは、出来事や状況そのものと、それが自分にとって持つ意味を、しっかりと分離することです。ネガティブな出来事だからといってネガティブな意味を持つとは限らないといった視点に立って自伝的記憶に詰まっているエピソードを整理するのです。そして、ネガティブな出来事や状況にも、今の自分にとってのポジティブな意味を読み取ろうとする姿勢を持つことです。
ネガティブなエピソードにも今の自分につながるポジティブな意味を見いだすことができれば、そうした自伝的記憶をもとに前向きな自己物語を組み立てていくことができます。
事実の世界と意味の世界
このようなことからわかるのは、私たちは客観的事実の世界を生きているのではなく、主観的な意味の世界を生きているのだということです。
もちろん人生において身に降りかかってくる事実が基本だし、事実に無関係に人生があるなどと妄想的なことを言っているのではありません。ここで言いたいのは、私たちが事実を経験するとき、事実そのものを経験しているのではなく、事実の持つ意味を経験しているのだということです。
言い換えれば、私たちは、出来事が羅列されている年表のような世界を生きているのではなく、個々の出来事に意味を与え、それらを因果関係で結んだりしながら、いわば物語の世界を生きているのです。
似たような境遇にあっても、前向きな気持ちで日々を過ごしている人もいれば、愚痴っぽくうつうつとした日々を過ごしている人もいます。その場合、境遇そのものが問題なのではなく、自分の境遇をどのように意味づけるかが問題なのです。