減少する海外への留学者数
「老害脳」化を肥大させる日本

 少し前の話ですが2022年のサッカーワールドカップや、2023年の野球WBCでは、日本代表が活躍し、国民もまた熱狂しました。私もその1人だったのですが、その中で特に若くして海外に出る選手の活躍が目立ったと痛感しています。

 若い間に集団主義的で組織ありきの日本から出て、海外で刺激を受けながら個人として成長する、またその成長を日本にフィードバックする、という好循環が、少なくともスポーツのトップ選手の間でうまく機能していることはとても素晴らしいと感じます。私も30代後半をアメリカで過ごした身として、大いに共感を覚えます。

 最新のテクニックや超一流のリーグの雰囲気を感じることと、医学の知見を求めて留学することは似ています。私は脳科学者として、自分の生まれ育った環境をいったん離れ、異なる世界に身を置いてみることがもたらす脳への積極的な刺激も見逃せない魅力だと考えます。

 そうすることで、自分自身に対する評価や、進むべき道の選択も変わります。日本では速球派だったけれど、アメリカではむしろ変化球の価値を評価された、などというのもよくある話ですが、世界のトップレベルに身を置くと、自分自身の新しい価値が見えてきます。当然、それによって目標や夢も刺激されることでしょう。

 しかし、スポーツ界では海外に出て活躍する若者が目立つ印象だった一方で、近年日本から海外に留学する学生は残念なことに減っています。文部科学省の資料「『外国人留学生在籍状況調査』及び『日本人の海外留学者数』等について」(2024年5月)によれば、日本からの長期留学生は2004年をピークに3割ほど減少、その後一時持ち直したもののコロナの影響でさらに減少し、2022年ではピーク時の半数近くになってしまっています。

 経済的な問題もあるのでしょうが、それだけでなく日本社会が内向きで、その割にはそれなりに大きな経済規模を保っているため、海外に出ていく最初の1歩を踏み出すきっかけを持ちにくくなっているのかもしれません。