東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊される。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

南海トラフ巨大地震の次にリスクが高いのは……
――津波で話題になるのは太平洋側です。日本海側は完全に安心できるものなのでしょうか?
いいえ安心できません。実際、1983年の日本海中部地震では14メートルの津波が襲ってきて日本海側が被害を受けました。
だから安心はできないのですが、リスクは災害の規模と頻度、それから人口や経済活動なども含めて考える必要があります。
それで繰り返しになりますが、いま日本列島のなかで優先順位をつけると第1位が南海トラフ巨大地震で、第2位と第3位が首都直下地震と富士山噴火になるということです。
もちろん、日本海の津波や京都の花折断層が震源となる地震も無視できるわけではありません。
東日本大震災の次は南海トラフ巨大地震。それから海の地震でいうと、北海道に大きな被害を与えることが予想されている日本海溝と千島海溝を震源とするマグニチュード9クラスの地震があります。
順番はだいたいわかっていて、その次は沖縄のほうの琉球海溝の巨大地震です。
太平洋ベルト地帯に比べれば人口が少ないから、あまり話題にはなってないけれど、そこも過去にかなり大きな地震が起きていて、いずれまた大きな地震が起きるのです。
その次が質問にある日本海側でしょうね。北米プレートとユーラシアプレートの境の糸魚川―静岡構造線があって、そこは沈み込みではなく横ズレというかたちで日本海中部地震のような地震を起こします。
地震が「特別なこと」ではない時代
──釧路の街中では、ひと月に一度ぐらい起こる震度4の地震は、特別な出来事ではありませんでした。地震が増えるということで、大きな地震があったらどんなものなのか? いろいろ考えてしまいます。
ひと月に一度ぐらいの震度4の地震が、特別な出来事でなくなったのは最近十年ぐらいなんですよ。2010年代になってからといいますか。それより前は特別な出来事でした。
それは釧路だけではなくて関東も関西も同様です。ただ、もっと前はやはり特別な出来事でない時期もあって、これは考える時間を十年、百年、千年と広げていくと正しい把握ができます。
それでも、「慣れっこ」になるのは悪いことではない。震度2の地震でもとてもおびえて、「明日、成田から帰国する」と言いだした海外の研究者がいましたから。
最近では、震度3は普通、震度4も平気。震度5弱も、まぁなんとかなるでしょう、本棚が倒れて困らないように位置をちょっと変えよう、という感じで、みなさん、しなやかに暮らしている。
大災害があっても命を落とさないために
危険性を知ることは大切ですが、おびえてばかりでは意味がないから、それはいいことです。
でも震度7をみくびるのは危険です。震度7はすべてが空中にふっ飛んで無重力状態になり大怪我をしますから。
ときには家具が倒れるなどして命を落とすこともある。だから首都圏では震度7がくるかもしれないということで準備をしていただきたい。
具体的には、まずとにかく家具は固定する。それと食料や水、医薬品、簡易トイレなどの備蓄をしておく。
これから新しくマンションを買う人は、最近は発電機や非常用給水システムが設置されているマンションがあるから、それもマンション選びの要素の一つとしてもいいでしょう。
一人ひとりがそういう方向で考えると、大きな災害があっても命を落とさない確率、そのままの生活を持続できる確率が高くなります。
巨大災害は想定外もあるけれど、慣れていいことと慣れてしまうと怖いことの両方があるということです。
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。