
ワールドシリーズを制覇し、3度目のMVPにも選出された大谷翔平。今シーズンは投手との二刀流復活が期待されるが、球界の御意見番・広岡達朗は野手か投手いずれかに専念するのが最適だと一貫して主張している。そのワケとは。本稿は、広岡達朗『阿部巨人は本当に強いのか 日本球界への遺言』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
最も理想的なバッティングは
落合博満のセンター返し
日本人離れした素材である大谷翔平の二刀流には、彼が日本にいるときからずっと反対してきた。
大谷は2018年、エンゼルスに入団し、6月に右ヒジ靱帯損傷で故障者リスト入りした。9月に88日ぶりにマウンドに復帰したが、3日後に右ヒジに新たな損傷が判明し、シーズン終了後の10月、トミー・ジョン手術を受けた。
この年は7月から打者で復活し、打率.285、22本塁打の成績を残した。
2年近いリハビリを経て二刀流が復活した2021年は9勝2敗、打率.257、46本塁打。2022年も15勝9敗、打率.273、34本塁打で人気・実績とも大リーグを代表するスーパースターになった。
なかでもメジャー6年目の2023年は2年連続2ケタ勝利・3年連続2ケタ本塁打の新記録を達成し、ヒジの靱帯損傷後も打席に立って三冠王も夢ではないバッティングを続けた。
これまで日本人が大リーグで放ったホームランは松井秀喜の31本が最高だったが、大谷は右ヒジ靱帯損傷の再発でマウンドを去った8月23日までにメジャー単独トップの44本を放った。
そして同季の成長を示しているのは、平均飛距離128.5メートル、最高打球速度188.5キロ、打球角度30度以上の特大アーチがセンターを中心に16本飛んでいることだ。右翼は14本、左中間から左の逆方向は7本だった。
私はこれまで何度も「打撃の基本はセンター返し」と書いてきた。この基本を忠実に実行したのが現役時代、3度も三冠王になった落合博満である。私も西武の監督時代、ロッテの主砲・落合には何度も痛い目にあった。
落合の本を読んで感心したのは、「右打ちのオレがライトにホームランを打ったのは、狙って打ったのではない。みんなセンター方向に打つつもりで、たまたま外角に来た球を打ち返したら右方向に入っただけだ」と書いていることだった。
「二刀流でベーブ・ルースに並んだ」は
大きな間違いである
落合のバッティングに対する姿勢と研究の成果は著書を読めばわかる。「ヒットの打ち方」について、「私の絶好調時の打球はピッチャーライナーである」と書いている。