このCMを性的だと批判している人たちからすれば、これは不誠実極まりない対応だろう。しかし、企業危機管理の観点では、東洋水産の対応は正解だ。社内に危機管理を熟知した人材がいるのか、しっかりとした専門家がアドバイスをしているに違いない。

 あのアニメ表現を性的と感じる価値観を持つ人たちに、どう釈明をしても理解を得るのは難しい。むしろ、火に油を注ぐことにしかならない、というのが企業危機管理の基本的な考え方だ。

 例えば、もし東洋水産がこの女性描写の意図などを説明した文書を、自社ホームページや公式SNSにアップしたとしよう。そこで「うどんの食べ方がいやらしい!」「女性の頬が赤いなんて性行為以外考えられない!」と怒り心頭の人々は、「なるほど、そういう意図ならしょうがないか」と理解を示してくれるだろうか。

 してくれるわけがない。それどころか、文書内の言葉使いや表現などを細かくチェックして、男尊女卑や性差別の思想が潜んでいないのかとさまざまな考察をして、さらに批判の声を強めていくはずだ。

 断っておくが、「批判に耳を貸さない」ことを推奨しているわけではない。

 先ほど紹介したように、「過度に胸を誇張した」とか「未成年者を思わせるキャラクターに児童ポルノと思われてもしょうがない格好をさせた」というような、女性の描き方に明らかに問題があった場合、社会的責任のある企業としては、説明や謝罪が必要だ。

 しかし、今回の描写はどういう理屈をつけても、外形的には「うどんを食べている」というだけで、法もモラルも逸脱していない。

「赤いきつね」のアニメCM(東洋水産株式会社(マルちゃん)の公式Xよりキャプチャ)「赤いきつね」のアニメCM(東洋水産株式会社〈マルちゃん〉の公式Xよりキャプチャ)

「気持ち悪い」「性的」「性行為を連想させる」というのは、あくまで個人の感覚に過ぎない。もっと言えば、このあたりの感覚の是非は、社会全体でコンセンサスを取るべき話であって、東洋水産という一民間企業がひとりで背負い込むようなものではないのだ。

 だから、東洋水産としてはノーコメントを貫くしかない。言っても「いろいろな意見があることは承知しております。今後のCM制作の参考にさせていただきます」くらいだ。

 そう聞くと、「でも、いくら少数派でもこういう批判に対して、何も説明をせずに放置をしておくと不買運動などにも発展して経営に損失があるのでは?」と心配する企業も多いだろう。実際、SNSでは「東洋水産は不買だ!」「これまで赤いきつね好きだったけど、もう買いません、さようなら」という声もチラホラと散見される。