頭の悪い人は「努力は報われるべきだ」という信念に縛られがち。じゃあ、頭のいい人は?
次々と新たなビジネスを仕掛ける稀代の起業家、佐藤航陽氏。数々の成功者に接し、自らの体験も体系化し、「これからどう生きるか?」を徹底的に考察した超・期待作『ゆるストイック』を上梓した。コロナ後の生き方として重要なキーワードは、「ストイック」と「ゆるさ」。令和のヒーローたち(大谷翔平、井上尚弥、藤井聡太…)は、なぜストイックに自分に向き合い続けるのか。『ゆるストイック』では、新しい時代に突入しつつある今、「どのように日常を過ごしていくべきか」を言語化し、「私自身が深掘りし、自分なりにスッキリ整理できたプロセスを、読者のみなさんに共有したいと思っています」と語っている。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

公正世界仮説:現代の呪縛から解放される
「努力は報われる」「正義は勝つ」──。
私たちはこれらのメッセージを自然と信じてしまっているのではないでしょうか。
こうした考え方は、「公正世界仮説」と呼ばれます。
公正世界仮説というのは、「世の中は公正(フェア)であり、善い行いをする人にはいい結果が、悪い行いをする人には悪い結果がもたらされる」という信念のことです。
もちろん、モラル的にはいい考えのように聞こえます。
しかし、この考えにとらわれすぎるとリスクもあります。
思い通りに結果が得られないときに、「自己否定」や「他者への不満」が生じてしまうからです。
・「なぜ自分は報われないのか」
・「なぜ他の人だけが評価されるのか」……
そんな負の感情が強くなりやすく、無力感に苛まれることも少なくありません。
この「公正世界仮説」が私たちに根深く染みついているのには、歴史的かつ社会的な背景があるのです。
「努力と報酬は結びつく」という考え
実は、かなり古くに遡り、宗教や社会秩序の維持のために、公正世界仮説に類する考え方が大きな役割を果たしてきました。
宗教では、「善行は報われ、悪行は罰を受ける」という「公正さ」が説かれます。
そして、社会の道徳や秩序を保つ手段とされてきました。
たとえば、神や仏に守られているといった信仰が「正しい行いは報われる」という安心感を人々に与えます。
信仰が不安を軽減し、善行を奨励する役割を果たしてきたのです。
これにより、社会の規律が保たれ、人々の行動が秩序あるものになると信じられてきました。
さらに、社会の構成員が、「努力は報われる」という価値観を共有することで、秩序が安定しやすくなる一面もあります。
この考え方は、近代国家の成長にも寄与しています。
特に産業革命後の時代には、労働者に「努力と報酬は結びつく」という考えを浸透させました。
社会全体の生産性向上や勤労の美徳を強調する手段としても利用されたのです。
その結果、「勤勉に働くことで報われる」「善い行いは社会的な成功につながる」といった思い込みが、教育の中でしっかりと根付いたのです。
しかし、現代社会では、こうした「公正世界仮説」が必ずしも当てはまらない状況が増えています。
テクノロジーの急速な発展やグローバル化により、競争は激化し、個人の努力だけでは結果が伴わない場面も増えました。
それでも、私たちは依然として「努力は報われるべきだ」という信念に縛られがちです。
そして、この仮説に固執しすぎると、思い通りの成果が得られないときに挫折しやすくなります。
このような時代に「ゆるストイック」を実践するためには、公正世界仮説から自分を解放し、「努力が必ず報われるわけではない」という現実を冷静に受け入れることが重要です。
「ゆるストイック」のためのファーストステップ
もちろん、努力や善行そのものが無価値なわけではありません。
しかし、がんばったことや正しいことをしたことと、それが報われることには実は関係がありません。
私たちは社会でずっとそう教育されてきました。
そして、それを信じさせることが封建社会や近代国家では秩序を維持する秘訣だったのです。
人によっては、これは受け入れ難いと感じる人も多いかもしれません。
ただ、人間が社会を維持して発展していくために必要だった「信念」なのです。
努力や善行を積むことと、それが報われることを、1対1で過剰に結びつけたがる現代の人々の思考のクセをまずは認識する必要があります。
そして、自分自身もその罠にハマっていないかを見直してみるのが、「ゆるストイック」のためのファーストステップです。
株式会社スペースデータ 代表取締役社長
1986年、福島県生まれ。早稲田大学在学中の2007年にIT企業を設立し、代表取締役に就任。ビッグデータ解析やオンライン決済の事業を立ち上げ、世界8ヵ国に展開する。2015年に20代で東証マザーズに上場。その後、2017年に宇宙開発を目的に株式会社スペースデータを創業。コロナ禍前にSNSから姿を消し、仮想現実と宇宙開発の専門家になる。今は、宇宙ステーションやロボット開発に携わり、JAXAや国連と協働している。米経済誌「Forbes」の30歳未満のアジアを代表する30人(Forbes 30 Under 30 Asia)に選出される。最新刊『ゆるストイック』(ダイヤモンド社)を上梓した。
また、新しくYouTubeチャンネル「佐藤航陽の宇宙会議」https://youtube.com/@ka2aki86をスタートさせた。