「自分の仕事に足りないことを全部言語化してくれる本」「会社員人生が180度、変わった!」
そんな感想が届いているのが、安藤広大氏の著書『リーダーの仮面』『数値化の鬼』『とにかく仕組み化』シリーズ三部作だ。これまで4400社以上の導入実績があるマネジメント法「識学」をもとに、ビジネスの現場で「一生活躍し続けられる」メソッドや思考法を授ける本シリーズは、さまざまな業界から圧倒的な支持を集めている。
今回は、全ビジネスパーソンに必須の「意思決定」のあり方を指南する、シリーズ最新刊『パーフェクトな意思決定 「決める瞬間」の思考法』の中から、特別に本書のエッセンスを解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「決めない」という意思決定
意思決定において問題になるのが、「責任の押し付け合い」です。
組織にいる以上、それぞれが何かしらの責任を負っています。
ただ、問題が生じるのは、「責任」と「権限」が一致していないときです。
それが「言い訳」を生み出します。
組織運営では、つねに「責任」と「権限」が合致している状態を、それぞれのメンバーの意識上に置いておかなければなりません。
「責任」>「権限」:責任に見合った権限を行使しない「免責」の状態
「責任」<「権限」:責任を超えた権限を使う「無責任(既得権益)」の状態
ということになってしまうのです。
それぞれ説明しましょう。
「免責」が起こるとき
まず、「免責」についてです。
現場のメンバーが決めないといけないことがあるとします。
たとえば、「お店でどのようなPOPを書くか」というレベルのことです。
とはいえ、そこに正解があるわけではないし、現場の人も最初はきっと不安になることでしょう。
「こんな派手なPOPでいいですかね?」
「赤いPOPと青いPOP、どっちがいいですかね?」
そのようにして、誰かに決めてもらいたくなると思います。
本人に権限があるのに、それを行使していない状態です。
もし相談があったときに、店長は、どのように返すべきでしょうか。
「それは、あなたがいいと思ったほうに決めてください」
と、その人に権限があることを伝えるべきです。
これが現場の人の成長のために必要な距離感です。
ただ、優しい人だとそれができないのです。
「赤のほうがいいんじゃない?」
と、良かれと思って「アドバイス」をしてしまいます。
その「良かれ」が、現場の成長を止めてしまうのも知らずにです。
これが、代表的な「免責」の失敗例ですが、どんな会社でも起こることです。
ある企業に、社長と営業部長がいました。
社長には、「市場からの評価を獲得する」という責任があります。
そして、営業部長に「営業部としての売上の責任」を与えます。同時に、「ターゲット企業の決定権を渡す」という権限を与えました。
ここまでが、社長のおこなった意思決定です。
それを受けて、営業部長は、ターゲットをどこにするのか。
「今年度は、『不動産業界』への営業を集中的に開拓します」などの意思決定をすることが求められます。
その営業部長の意思決定に対して、
「いや、不動産業界より製造業界のほうがいいのではないか?」
と、社長が口出しをすると、問題がややこしくなります。
社長は「権限を与える」という意思決定。
営業部長は「ターゲットを決める」という権限。
それが明文化されたのですから、その通りに実行しないといけません。
つまり、社長は「任せないといけない」し、営業部長は「自分で決めないといけない」ということなのです。
というように、先ほどのPOPの相談を受けた店長も、ターゲット企業について口出しをした社長も、部下の権限を奪うことから起こる「責任のお裾分け」を受け取らないようにするのが大事です。
相談をされると、心の中では、「自分がいなきゃダメだよな」と思って嬉しいかもしれません。
しかし、それはじつは権限を奪っていることになるのです。
「無責任(既得権益)」が起こるとき
逆に、「無責任(既得権益)」についてです。
それは、権限がないことに対して決めてしまうことです。
つまり、「越権する行為」です。
これは、先ほどのPOPの相談を受ける店長や、営業部長に意見を言いたくなる社長とは異なり、タテのライン以外で起こります。
たとえば、同僚にベテランのバイトの人がいるとします。
なぜか、その人とは無関係の業務でも意見を聞かないといけない不文律がある。
「今回のPOP、これでいいですか?」と、確認しないといけない。
「もっと大きくしないと目立たないよ」とアドバイスをされて、それを実行しないといけない。
そのとおりにして、うまくいかないとき、そのベテランは責任を取ることができるでしょうか。
できませんよね。
アドバイスを聞いた人も、「あの人に言われたとおりにやっただけです……」となってしまい、失敗の責任が放置されます。
誰が責任を取るのか。
それが見えなくなってしまうのです。
このベテランの行為が、「無責任(既得権益)」です。
承認欲求と戦ってください
自分が何を決めて、何を決めないか。
その線引きをしっかりとするのです。
すると、本来の責任者の立場が明確になり、与えられた裁量での意思決定に臨むことができるでしょう。
しかし、人の上に立つと、多くの誘惑が生じます。
「自分のほうがたくさんの経験がある。だから、意見を聞いてくれるのは嬉しい」
そんな場面です。
ただ、そこで承認欲求のスイッチを入れないことです。
責任においての言い訳を作らないように、
「これ以上は決めない。あとは任せる」
ということを決めてください。
その決断が、部下や組織を強くしていきます。
(本稿は、『パーフェクトな意思決定』の著者・安藤広大氏が書き下ろしたものです)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。2002年、早稲田大学を卒業後、NTTドコモ、ジェイコムホールディングス、ジェイコム取締役営業副本部長を経験。プレイングマネジャーとして「成長しないチームの問題」に直面し悩んでいたときに「識学」に出合い、2013年に独立。多くの企業の業績アップに貢献した。2015年、株式会社識学を設立。わずか4年足らずで上場を果たし、これまで9年間で約4400社に識学メソッドが導入されている。著書にシリーズ累計150万部を突破した『リーダーの仮面』『数値化の鬼』『とにかく仕組み化』(ダイヤモンド社)がある。『パーフェクトな意思決定』はシリーズ最新刊。