結局は予算が必要、国全体の資源配分の問題
リニア建設や半導体への補助とどちらが重要か?

 このように全体としてカバーできる施設の割合は上昇するが、個々の施設について見れば、たまたま事前管理の対象から外れていたものが事故を起こしてしまうことは、もちろんある。

 実際、今回の八潮市の下水道は建設後40年後の施設だった。そして、事前検査の対象にはなっていなかった。それなのに大事故になった。

 もともと50年という耐用期間は、仮定にすぎない。個々の施設について、50年間必ず使えるという保証はない。だから事前点検方式は万能ではない。

 ところで、上述の計算では、維持管理・更新に充て得る予算額が5.25兆円と仮定したが、この仮定を変えれば結果は大きく変わる。仮に予算を倍増することができれば、問題は解決してしまうだろう。

 もちろん、そうなったとしても、事故は完全には防げないだろうが、社会資本を安心して使い続けることはできるわけだ。国民生活の安心度は大きく変わることになる。

 これは、国全体の資源配分をどうするかという問題だ。

 社会資本の問題に限っても、下水道などの生活関連社会資本の維持と、総工費が7兆円といわれるリニア新幹線のどちらが優先されるべきなのか、改めて考えるべきだ。

 範囲を広げれば、防衛関係費の増額や半導体製造企業への補助との関係をどう考えるかなどという問題がある。

 また、コロナ禍では、定額給付金や雇用調整助成金として巨額の資金が支出された。

 こうしたものと比較して、生活関連社会資本の維持は最も緊急度が高い対象といえるだろう。図表1で行った計算は、社会資本の維持のための予算が1割増えれば、われわれの日常生活の安全性は大きく向上することを示している。

 しかし、それが現実の予算編成に反映されるとは限らない。政治的な力関係で予算配分は大きく変わる。

 予算編成のメカニズムにひずみがあれば、それはわれわれの日常生活に大きな影響を与える。そうしたひずみをなくしていく努力が重要だ。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)