
センサや測定器などを手掛けるファクトリー・オートメーションの総合メーカー・キーエンス。同社は「人は本来弱い生き物なので、難しいことや新しいことを積極的には取り入れたがらず、目先の簡単な方法を選んでしまいがち」という考え方を意味する「性弱説」をベースに据えた経営手法によって、日本屈指の高収益企業に名を連ねているという。その考えは、営業担当者が行う「報連相」にも活かされている。かつてキーエンスで新商品・新規事業企画を担っていた高杉康成氏が、社員の成長を促すキーエンス流の「報連相」について解説する。※本稿は、高杉康成『キーエンス流 性弱説経営』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。
商談に出向いた営業マン
新商品の説明に励んだが……
「どうして顧客の予算状況を聞いてこないのか」
これは報連相の場面で、営業担当者に対して上司が発した言葉です。報連相は営業部門だけではなく様々な部門で実施されます。OJT(職場内訓練)の観点から、この活動をうまく教育に生かしたい企業は多いでしょう。
しかしながら、ほとんどの企業はここでも性善説の視点に基づいて活動し、教育機会としてうまく生かせていません。
ここでは、性弱説(編集部注/人は本来弱い生き物なので、「難しいことや新しいことを積極的には取り入れたがらず、目先の簡単な方法を選んでしまいがち」という捉え方)の視点に立った報連相による社員教育について紹介します。
まずは冒頭の場面を整理してみましょう。営業担当者のAさんは、新商品の商談のためにX社を訪問しました。そこでは、X社における新商品の具体的な使い方、そこで求める仕様(新商品がX社の環境に当てはまるかどうかの確認)、使用予定個数、使用開始時期について打ち合わせをしました。自社の新商品が本当に使えるかどうかなど、かなり込み入った打ち合わせとなり、Aさんは「予算状況」について顧客に確認せずに帰ってきました。
「予算情況は聞いてるはず」
性善説に基づく上長の期待
帰社後、上長にX社との商談状況を報告。そこで出てきた上長の言葉が冒頭のものでした。予算状況とは、「新商品を買うためにX社が既に予算を確保しているかどうか」という情報です。もしX社が予算を確保できていないと、いくら商談担当者が購入予定個数や使用開始時期について述べても、その通りにいかない可能性が出てきます。