Aさんは、自社の新商品がX社の現場で使えるかどうか分からないので、まずその確認を優先しています。予算状況について気にはなっていたものの、自分の営業成績は比較的順調であるため優先順位はそこまで高くなく、商談の具体化に集中。その結果、優先順位が低かった予算状況の確認まで面談時間内に手が回りませんでした。
Aさん自体は予算状況の確認をしなかったものの、商談を具体化するという最も重要な仕事をきちんとこなしました。にもかかわらず「何で聞いてこないのか」と叱られたのです。Aさんにとってみれば、「上長にとって販売時期がそんなに大事なら、あらかじめ言ってくれればいいのに」と感じるのが自然です。Aさんは、せっかく商談がうまく進んだのに叱られたことに対し、大いに不満を感じていました。
筆者はコンサルタントとして、このような報連相のすれ違いを指導先で数多く見てきました。「これではなかなか社員は成長しないだろう」「そんなに大事なら、なぜ上長は事前にAさんに伝えないのか」と、こういった場面に遭遇するたびに考えさせられました。
社員を成長させる
「事前事後報告」
というのも、私がキーエンスに在籍していたときには、こういったすれ違いはほとんどありませんでした。なぜなら、キーエンスにおける営業の報連相は、「事前事後報告」が基本だからです。重要な情報は、上長が担当者に対して、事前にしっかりと聞いてくるように指示をします。
従って、こういったすれ違いが非常に起こりにくい環境です。もし上司が直前に具体的に指示した内容を聞き忘れた場合、担当者は「自分がミスをした」とはっきり認識できます。もし上司が事前に指示していないのであれば、それを聞いていないことで叱責されることはありません。
なぜキーエンスは「事前事後報告」を推進するのでしょうか。それは「性弱説の視点」に基づいて報連相を分析しているからに他なりません。性弱説視点で顧客との面談を分析すると、「3つの制約があるため、うまくいかない可能性がある」という前提に立つことになります。3つの制約とは、「時間の制約」「スキルの制約」「コミュニケーションの流れによる制約」です。