半導体写真はイメージです Photo:PIXTA

50年以上の歴史を持ち「世界初」「業界初」とされる画期的な商品を世に送り出してきた精密機器メーカー・キーエンスでは、顧客の潜在ニーズをもっとも重視しているという。同社で長年商品開発に携わってきた高杉康成氏は、顧客自身も気づいていない“隠れたニーズ”をすくい上げるために必要なのは「性弱説」の視点だと説く。人は本来弱い生き物であり「難しいことや新しいことを積極的には取り入れたがらず、目先の簡単な方法を選んでしまいがち」という捉え方を意味する性弱説。その視点が商品開発に欠かせない理由とは?※本稿は、高杉康成『キーエンス流 性弱説経営』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。

顧客ニーズを捉えた商品開発は
どこの企業でもやっているが…

「営業担当者が顧客ニーズを収集し、新商品開発に生かしている」

 キーエンスが誇る高収益性の背景としてよく使われる文言です。顧客ニーズを捉えることは、昨今の顧客ニーズ志向の観点から重要です。「マーケットイン」とも呼ばれ、顧客の声に基づいて新商品や新サービスを開発します。顧客の声を反映させるからこそ売れる新商品ができ、高収益につながるというロジックです。

 しかし、読者の中には疑問を感じる人もいるのではないでしょうか。新商品開発に携わった経験があるビジネスパーソンならなおさらでしょう。というのも、「顧客ニーズを聞いて新商品開発に生かす」程度の取り組みは、最近の企業ならどこでもやっています。どこでもやっている手法で高収益を生み出せるなら苦労はありません。

 一般的な企業とキーエンスの違いは、ここでも性弱説(編集部注/人は本来弱い生き物なので、「難しいことや新しいことを積極的には取り入れたがらず、目先の簡単な方法を選んでしまいがち」という捉え方)的なアプローチの徹底です。

 新商品開発を考える場合、「なぜ新商品開発をするのか」という目的が大きく2つあります。この事実をまず押さえる必要があるでしょう。

 より多い理由は、「既存商品がだんだん売れなくなってきているため」「競合品に負け出しているため」といった、販売状況・対競合戦略に由来するものです。例えば、スマートフォンメーカーが毎年のように新型を出すのは、毎年のように処理速度や記録容量を高めるなどしないと競合の新商品に負けてしまうからです。

 一方、「今ある商品の価値を高めてより高価格で販売する」「世の中に無いような画期的な商品を投入する」といった、付加価値を高めて高収益を目指すタイプの新商品開発も存在します。多くの人が知っているような商品だと、「羽根の無い扇風機」「1分でお湯が沸かせるポット」などはこれに当たるでしょう。

 前者のニーズ収集はシンプルです。顧客と接点がある担当者に「顧客ニーズを取ってきてください」と依頼すれば、ニーズを収集すること自体はそれほど難しくありません。なぜなら、顧客が今まさに使っている商品の使い勝手や不満点を聞けばいいからです。