これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。
では、いかにして変えていくか? そのために必要な考え方やノウハウがまとめられた『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋してみました。

わたしたちは、なぜついついマクドナルドへ行ってしまうのか?Photo: Adobe Stock

QSC&Vを徹底せよ!

 マクドナルドが重要視する「第一の真実の瞬間」は「QSC&V」と呼ばれています。これはお客様の店舗体験価値という意義だけでなく、その上位概念として創業時からマクドナルドの不変の企業理念としても位置付けられています。

「QSC&V」とは、Q(クオリティ)、S(サービス)、C(クレンリネス)、V(バリュー)の4つの要素で、それぞれの定義と基準があります。

Q(クオリティ)
 おいしさ、食の安全・安心、商品の温度、外見の美しさ、ボリューム、原材料の品質を意味します。お客様に提供するハンバーガーやドリンク、デザートなどの食の品質、安全・安心だけではなく、おいしさ、触感、温度、ボリューム、外見の美しさなども含まれています。

 マクドナルドには専門家の科学的な知見を取り入れた食品安全・品質保証に関する厳格なグローバル基準と管理システムがあり、すべての原材料サプライヤーはこの基準をクリアしない限りマクドナルドと取引することができません。それほど品質にはこだわりを持っています。

S(サービス)
 マクドナルドがサービスで大事にしているのは3つ。速さ、注文通りの正確さ、スマイルとホスピタリティです。店舗の従業員であるクルーやマネージャーが、心からのおもてなし、丁寧でスマイルあふれる接客、クイックサービスレストランとしてスピーディーで正確なサービスを行うことを目指しています。

 高品質でおいしいハンバーガーができ上がっても、それを提供するプロセスであるホスピタリティ、スピード、正確さがお客様に満足いただけるものでなければ、せっかくのおいしいハンバーガーの製品価値がお客様に伝わらないという考え方です。

C(クレンリネス)
 店舗の清潔さ、従業員のアピアランスを意味します。店舗入り口、客席、カウンター、通路、トイレ、厨房、駐車場など、お客様の目の届かない場所も含め、店舗のいたるところで衛生管理を徹底的に行うことを目指しています。

 そしてお客様と接する従業員の清潔感を保つこともクレンリネスの重要な要素で、クルーの身だしなみや髪型、手や指などが清潔でないと感じた瞬間、食品に対する安全・安心感も損なわれます。

 品質やサービスへの評価も下がり、せっかくの楽しい外食のひとときも台無しになります。お客様の気分の低下とともに、再来店意向も低下してしまうため細心の注意を払い続けなければなりません。

 清潔さはマクドナルドブランドの印象を形成する重要な要素の一つであり、顧客満足度にも直結する要因となっています。

 店舗では“Clean As You Go”という言葉があり、作業中に汚れや散らかりに気づいたら、その場で即座に清掃するというオペレーションが実践されています。常に清潔で衛生的な店舗環境を維持し、顧客に安心して利用してもらえる空間を提供することを目指しているのです。

V(バリュー)
 ハンバーガーのおいしさ、店内の心地良い空間、便利で快適なサービスであるとお客様が感じる総合的な体験価値と、その体験価値に見合ったお手頃価格のことです。

 お客様が感じる店舗体験価値に見合った適切な価格設定がなされれば、お客様からは満足感、お買い得感、納得感を感じてもらえます。再度の来店確率や、友人・家族へマクドナルドを推奨する意欲も確実に向上します。

 逆に、支払った価格に、サービスの体験価値が見合わなければ、お客様の足は遠のいてしまうのです。

 マクドナルドでは、この店舗体験価値を向上すべく、さまざまな取り組みを行っています。

 例えば、お客様の満足度のモニタリング。店舗の現場や、店舗を支援する現場と本社のオペレーションチームは毎日、毎週、毎月QSCの業績指標(KPI)をチェックしています。お客様からの声を店舗で直接聞き、お客様サービス室、「KODO」と呼ばれるアプリからフィードバックをもらい、リアルタイムの改善策を講じています。

 トレーニングに関しては、クルーと呼ばれるアルバイト全員に丁寧なオリエンテーションが行われています。トレーニングやフィードバック、認証などを「ハンバーガー大学」という教育機関が開発したトレーニングシステムとマニュアルに沿って、日々行っています。

 また、マクドナルドには1977年から毎年開催している「AJCC(オールジャパン・クルーコンテスト)」があります。全国約20万人のクルーを対象とし、彼らのオペレーション技術、サービス&ホスピタリティ、モチベーションの向上を目的とした技能コンテストがあり、毎年QSC&Vの高みを目指し続けています。

 QSCの概念はマクドナルドの創業者であるレイ・クロック氏が提唱し、彼の右腕として活躍したフレッド・ターナー氏(2代目の社長)が浸透させました。

 どの店舗でも一貫して、お客様が満足する店舗体験を提供するため、店舗オペレーションの作業工程を分析し、体系的にデザインし、全工程を言語化し、オペレーションマニュアルを作り上げたことにより、実践が始まりました。

 その後、このQSCが社内とフランチャイズオーナー、店舗従業員に浸透するにしたがい、元来の顧客サービスとオペレーション基準という範囲を超え、お客様の店舗体験価値であるV(バリュー)が加わり、より重要な上位概念に昇華。マクドナルドの企業理念となりました。

※本記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。