これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。
では、いかにして変えていくか? そのために必要な考え方やノウハウがまとめられた『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋してみました。

マーケティング費用を、どこに分配すべきか
上の図は米国の調査会社GMAとBooz & Companyがまとめた米国の消費財メーカーのマーケティング費用の使用状況の推移です。
ご覧のように米国では、流通向けの販促費用(トレードプロモーション)やマス媒体への宣伝費の投下が減少しています。
一方、SNSやインターネット、「ショッパー・マーケティング」など、消費者の認知・興味・購買行動に影響力を持つ施策へのマーケティング費用へと大きくシフトしてきています。
消費者の4大マスメディア(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)に接触する時間が減り、SNSやインターネットを閲覧するスクリーンタイムが増加。それとともに、消費者の購買態度・行動が、店頭の施策によって、より変容することが理解されてきています。
その結果、旧来の流通向け販促費(トレードプロモーション)やマス媒体に偏っていたマーケティング費用が、より消費者にブランド価値の伝わりやすいメディア、店舗体験にシフトしているのです。このメガトレンドは、今後も継続すると考えられます。
日本のメーカーも、自社ブランドのお客様の購買行動を見据え、マーケティングの費用対効果を分析していく必要があります。
旧来型のマス媒体への広告宣伝など、ROI(投資利益率)の低くなった打ち手を見直し、費用を削減する必要があります。そして、それらを原資として、お客様の購買態度・行動変化につながるマーケティング費用にシフトしていく。そのための予算策定の仕組み作りに取り組むべきだと考えます。
そして今、大きく注目されているのが、小売業そのものがメディアになるという考え方「リテールメディア」です。象徴的なのが、今なお大きく株価を上げている米国最大の小売業、ウォルマートの取り組みです。
ウォルマートはネットスーパーも展開していますが、人気なのがネットスーパーでオーダーして、店頭でお客様が受け取るというサービスです。時間をかけて商品を店内で探さなくても、注文した商品はすでに袋や箱に入れられており、車で店舗に行って、それを受け取るだけです。
注目は、ネットスーパーで注文する際、カテゴリーごとにどのメーカーの商品が上位に表示されるか、です。検索エンジンのSEO対策ではありませんが、どのメーカーを上位にするかは、ウォルマートが決めることができるのです。これが広告費扱いとなっています。
当然ですが、上位に表示されれば、それだけ消費者からの注目度は高まります。しかも、ネットスーパーを見ているわけですから、購買意欲は極めて高い。費用をかけてでも、上位に表示してもらおうと考えるのは、無理もないと思います。ウォルマートは、新たな収益の柱を見つけたのです。
ニューヨークで行われた2024年の全米小売業界のショー「NRA(ナショナルリテールフェデレーションショー)」では、このリテールメディアが大きな話題になっていました。小売業が、商品の売買以外で収益を得る機会を得たということです。
米国の地上波のNBCの視聴率とウォルマートのネットスーパーの視聴率が比較されていましたが、今やウォルマートが上回っている。また広告体験と広告の注目度において、リテールメディアが他のあらゆる主要メディアを凌駕しているのです。これは、アマゾンなども同様ですが、今やメディアとして大きな価値が生まれているということです。
さらにウォルマートはテレビメーカーの「ビジオ」を買収しており、そのテレビのリモコンにウォルマートボタンが標準装備されるのでは、といわれています。パソコンを開かなくても、テレビでネットスーパーが見られたり、注文できるようになるのです。新しい方法で顧客とつながり、サービスを提供するということです。
小売業もテック化しているわけですが、同時に消費者の購買行動を与えるメディアも大きく変化していることに注目しておく必要があります。
※本記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。